地震、台風、豪雨など、自然災害の多い日本ですが、日本人は意外なほど防災意識が低いと言われています。防災グッズを買ったものの、押し入れにしまいこんでいるという人が多いのではないでしょうか。
防災について日頃から意識していると疲れてしまうものですが、さすがに、3月11日になると意識せずにはいられません。あの日をきっかけに備えた防災グッズを、見直してみてはいかがでしょう?
「無人島にひとつだけ持っていくとしたら、何を持っていく?」という代表的なトークテーマのように、人それぞれの価値観によっても答えは変わってきます。価値観とは優先順位とも置き換えられるでしょう。軽さをとるか快適性をとるか、山装備を選び抜く際の葛藤とも似ています。
以下では、住む地域も家族構成も違う2人のアウトドアマンの、防災グッズを見せてもらいました。2人の選択を参考にしながら、ライフスタイル、住んでいる地域、家族構成、そして優先順位などを考えて、専用の防災グッズをカスタマイズしましょう。
棚田の再生こそが防災・減災につながる。
まずは、岡山県美作市で大芦高原キャンプ場を経営する三宅康太さん。大阪で証券会社に勤めていたこともあるそうですが、これからの暮らし方を考えたときに、都会で働くよりも、人が減っている田舎と言われる地域で、自分が貢献できることを考えたほうが、自分も日本もおもしろくなるのではとの思いから地方移住を決めたそう。
もともと人が集まる場所を作りたいと考えていた三宅さん。地元岡山でも地域おこしをがんばっていた美作市で閉鎖されていたキャンプ場を見つけ交渉し、指定管理者としてキャンプ場をスタートすることになったという。
3.11のときは高校生だった三宅さんも、報道映像には衝撃を受けたとか。キャンプ場経営という自然に近い場所を職場にしたことで、さらに災害・防災への意識は高まってきたという。
しかし、岡山県は大きな災害も少なく、いい意味でのんきな県民性でもあることから、全体的に防災意識は低いのだとか。防災を前面に打ち出すイベントをしても集客は難しく、キャンプやBBQを通して、キャンプの知識や道具が防災に役立つことを啓蒙しています。
また、美作市は美しい棚田でも有名なエリア。昔ながらの水路が活かされた棚田は、災害(主に土砂災害)対策の要素としても重要な機能ですが、後継者不足や獣害被害の拡大など課題も多く、耕作放棄地が増えてきているそうです。機能していない棚田はそれだけ土砂災害のリスクも高める要因になるため、棚田の再生・維持にも尽力されているのだとか。
防災グッズを車載しておくべき理由
そんな三宅さんの住まいも山の中腹にあるため、自然災害としてすぐに頭に浮かぶのは土砂災害。速やかに避難することを最優先に考えると、防災グッズは家に置いておくよりも車に置いておくのがベストな選択です。職場にも車で移動することから、三宅さんの防災グッズは常に車載しているという。
また、防災グッズはバックパックのトップリッドにまとめているそうです。
これは、単体でもウエストポーチ的に装着することもできるし、どんなバックパックにもトップリッドとして装着することができる利便性を評価して採用。それでいて夫婦2人の防災グッズがしっかりとまとめられるサイズ感も優秀です。
防災グッズ自体が大掛かりになってしまうと、被災したときに三宅さんが行動できない状態になったとしたら、女性が持ち運び困難であるといけない。実際に被災したことをしっかりと2人で想像しながら考えた最低限の装備になっていると言えるのでしょう。
中の装備を展開すると、セットのサイズ感のわりに実に充実しているのがわかります。水の確保、電源の確保、食の確保、火(=暖)の確保、小さなセットの中に、命に関わる大事なものが過不足なく詰め込まれています。
お米6合もセット内容ですが、以前点検時に車ではなく自宅で保管していたら、その隙にネズミにかじられていたことがあったとか。保管方法も大切ですね。飯盒として使うメスティンは、以前は通常サイズだったようですが、2人分としては小さい、というかちょうどよすぎて非常時の利便性に欠けることからラージサイズに。
コンパクトなものとある程度大きさがあったほうがいいもの、これらを見極めることが重要とのことです。あくまで使ってみないと判断できないものですから、被災時にはじめて使うなんてことにならぬよう、ピクニックやキャンプで試してみるのがいいですね。
これとは別に、キャンプでも使う装備がオプションで加えられます。これはあくまで避難時に余裕があれば加えるものですが、キャンプのためのセットが“もしも”のときの備えになるを表現したセットと言えるでしょう。
キャンパーの数だけ避難所の負荷を下げられる
続いては「大月アウティングスタイル」という任意団体を主宰する上條浩道さん。2020年7月に発足したこちらの団体も、キャンプという名目で防災意識を啓蒙する活動をしているという。
大月市にお住まいの上條さん、実はお住まいはハザードマップの赤いエリアだそうで、2019年の台風19号のときは家族と自主避難を試みたのですが、学校に行くとスペースが埋まっていて入れなかったとのこと。高齢者と障害者優先のなか割って入るのも忍びないので、自宅に戻った経験があるとか。
大災害が起きたときには避難所はきっとパンパンになり、多くの人が難民になる。そこに強い危機感を感じたという上條さん。キャンプできる人が増えれば、災害時に多くの人で避難所を圧迫することがなくなるはず。まずは大月市の皆さんにそのことを知ってもらおうとはじめたのが大月アウティングスタイルだという。
最初はご夫婦2人からのスタートでしたが、これまで10回ほどキャンプイベントを行なっており、運営メンバーや参加者も拡大中。最終目標は大月市民全員をキャンパーにすることだそうです!
家族で話し合う防災グッズの優先順位
そんな上條さんは5人家族。中学1年生、小学5年生と1年生の3人のお子さんがいらっしゃいます。
5人ともなると防災グッズとして持ち出す量も多くなってしまいますが、5人運び手がいるとも。家族で分散してもっていくことを想定した構築になっているそうです。
こちらが上條家の防災グッズ。1泊2日の避難を想定した一次持ち出し品になります。写真では銀マットや寝袋は1セットですが、実際には人数分をもっていきます。また、これに季節に応じた衣類をまとめます。
シェラカップはカップとしてもお皿としても湯沸かしにも使える万能さで採用。持ち手にパラコードを巻いておけば、火傷なども防げます。何かのときにはほどいてロープとしても使えるのも、防災グッズとしての優秀さを物語っています。
ホワイトボードは、電波が使えないときの伝達手段として有効。必ずしも5人そろって行動できるわけではない避難生活を、リアルにシミュレーションできていますね。
持ち出し品を構築するとき、自分たちだったら何をもっていくか? 子どもたちと一緒に作戦会議をするそう。そこで下の子がピックアップしたのがぬいぐるみ。自宅を離れるだけでも不安なのに、避難所で知らない人ばかりのところに行くとなるとさらに不安は募るもの。不安感を少しでも和らげてあげることが大事になります。
避難生活で特に重要視したいのは子どもたちのメンタルだという。そのため、子どもたちが遊ぶもの、持っていきたいものを採用された。家族で避難を考えたときに一番中心になるのは子ども。子どものメンタルが下がってくると、親も影響されてしまうという。当然、親だって不安な状況に変わりないので、子どもたちが元気でいてくれれば、癒しの存在にもなるはず。
また、密閉袋に家族の紙焼き写真も何枚か。自宅やスマホを失ったときの大切な思い出にもなりますし、はぐれたときの捜索時には人に託すこともできます。
こちらは二次持ち出し品。車でキャンプ場に移動して数日間テントで過ごすことを想定しています。一次持ち出し品から増えたのは、テントと焚き火道具と電源。
避難所でテントを張れるかを想定したそうですが、お年寄りは車で来ることを考えるとグラウンドも車でいっぱいになってしまうかもしれない。理想はキャンプ場が避難所に指定されていることでしょうか。
大月アウティングスタイルで行なう「シェルターキャンプ」の開催地にもなっている桂川ウェルネスパークは、台風などの災害時に近隣住民の避難所として活用されており、将来的には山梨県の防災拠点公園として整備される予定です。
ここでのキャンプに慣れておくことで、避難生活をキャンプの延長上にとらえることができるかもしれませんね。
持ち出す際に、用意していたバックパックだけを持っていこうとしがち。「入っているから大丈夫だろう」で、入ってなかったときのリスクは大きいものです。準備の10〜15分を惜しまず、みんなできちんと忘れ物がないかを確認しながら準備するのが上条家のルールです。
リストの筆頭には「モチベーション」という一語が。「避難するぞ!」という気持ちをもっていくことがまず大事とのことでした。
人には人それぞれの持ち出し品がある
住む地域や家族構成によって持っていく道具の種類も量も優先順位も異なりました。自分たちだけではなく、高齢者や小さな子どもなどを主役に考えると、必要なものの優先順位が変わってくることがわかります。
防災グッズは自分を含めた誰か任せにしないで、家族みんなで話し合って考えるのがいいのでしょう。防災グッズを見直すタイミングは、家族が家族のことを話し合うよいきっかけ
ともいえます。また、家族だけではなく地域のことを知る・考えるよい機会にもなるかも。
それぞれの違う防災グッズが構築できたら、地域の人と友人と見せ合うのも楽しいものです。私も今回お2人のラインナップを拝見してとても刺激を受けました。SNSにもアップして、多くの人と共有するのもいいかもしれませんね。
テキスト:渡辺有祐
監修:寒川一 『新時代の防災術』(学研プラス)