もし、UPIがレストランを作ったら!? そんな遊び心から生まれた架空の「UPIレストラン」
北欧ソト料理家で、UPIナビゲーターシェフ寒川せつこが毎号ゲストを招き、共にお客様をもてなします。第4号のゲストシェフは、高知の陶芸家、小野象平(しょうへい)さんです。
高知の土でつくられる器
今回のレストランの舞台は高知・香北町谷相。
山のてっぺんで棚田を見渡す小野象平さんの自宅兼工房を訪ねた。象平さんの器に、高知の食材で作る料理を盛ってお客さんをもてなそう、というコンセプトだ。
高知空港から車で約30分の距離にある象平さんの自宅より。東京・渋谷の喧騒から、2時間半で戻ってこられる別天地。
象平さんは、同じく陶芸家である小野哲平さんを父に持ち、一昨年他界した名工・鯉江良二さんの最後の弟子となった。
「師匠は茶の湯の器も手がける人で、土を採取してその全てを器に生かすというのを僕に徹底的に教え込んだ人でした」。
器のための土づくりは、住まいのある高知の山から土を取ることから始まる。
それは沖縄に見られるのに似た赤土。水にさらし、浮いてきた不純物を取って1ヶ月寝かすという。土中の菌を増やして発酵させ、粘土質を出すためだ。
昨今、土を一から作る陶芸家は珍しい。しかも高知の土は陶芸に向くとは決して言えず、だから陶芸の産地にならなかったと象平さん。ではなぜ高知の土にこだわるのかと聞けば、「そうじゃないとこの青が出せないんです」と言う。
象平さんの器はガス窯で焼成される。あえて窯のなかに無酸素状態を作ることや、微妙な温度調整での「焚き」が、象平さんの表現したい作品にとって何より重要だからだ。
左が高知の土100%の青灰釉の器。手前の黒化粧の器は、強度を高めるために信楽の土を混ぜている。3度焼きで表現するメタリックな質感が特徴の新作だ。高知の荒土(粒)を混ぜることでより印象的な深い表情に仕上がる。
象平さんの代表作の一つである青灰釉の器は、窯の中に空気を入れない特殊な焼き方をすることで、鉄分の多い高知の赤土に、釉薬に混ぜる木の灰が結合し、冷めるときに青に発色する。土と灰と熱によるありのままの色。だからどんな料理をも受け止めてくれる。
ファーマーズマーケットでときめく
せつこは象平さんの器をイメージしつつ、食材を調達しにファーマーズマーケット「とさのさと」へ向かった。
高知の伝統野菜やカツオをはじめとする鮮魚、土佐あかうしにジビエ、果物や柑橘もたくさんの種類があって、高知の食の豊かさに改めてびっくり。
高知はカツオ天国だけあって、カツオは1本もの、刺身用のサク、タタキ用、藁焼きしたものなどが揃い、サイズもいろいろあって目移りしてしまう。ぜひとも本場でカツオのワラ焼きをしてみよう、と、皮付きのサクをカゴに投入。
高知がカツオの一大産地であることを実感。「とさのさと」には、さまざま状態のカツオが並ぶ。
四万十川や仁淀川など清流の多い高知では、ツガニと呼ばれる川ガニもよく食卓に上る。
野菜売り場でまず目に留まったのが「りゅうきゅう」だ。里いもの仲間であるはすいもの茎で、高知の郷土料理に欠かせない野菜。
中はスポンジ状になっていて、シャキシャキの食感が特徴。
他にも、オクラ、十六ささげ、カツオの薬味(ニンニク、新ショウガ、大葉、ミョウガ、小ネギ)、柑橘(ユズとブシュカン)などを買い込んだ。
右上の太い筒状のりゅうきゅうと、手前の長い十六ささげを、さっと和え物に。黄色い花はオクラの花。
カツオの藁焼きに挑戦!
象平さんの自宅の庭をお借りして、本日のメインであるカツオの塩タタキを作る。
藁焼きのためにUPIから持ち込んだのはソロストーブ。こんなふうに旅先での料理に役立つのが、直径約18cmの「キャンプファイヤー」だ。
カツオを藁焼きにするのは、藁は強い火力を得られるため、一瞬にしてカツオの表面をムラなく焼くことができるため。
家庭のガス火ではそうはいかず、焼いた後に氷水にさらして中まで熱が入るのを防ぐのが一般的だが、藁焼きならその必要はなし。
水っぽくならず、おまけに煙のいぶし効果でカツオの風味がよりいっそう引き立つ。何より、藁焼きという行為そのものがエンターテインメント性抜群で、それだけでおいしさがアップするというもの。
ソロストーブでカツオの藁焼きに挑戦!
やや厚めに切り分けたカツオを、象平さんのおおらかな板皿に盛る。マーケットで入手した薬味をたっぷり添え、塩をふって「塩タタキ」でいただく。
これまでポン酢で食べてきたカツオのタタキとはまったくの別もの。脂がのった戻りガツオの濃厚な旨みと薬味が手をつなぎ、これはポン酢や醤油で消してしまってはもったいないと思った。
藁焼きにしたカツオはぜひ塩タタキで。象平さんの板皿がどっしりと受け止めてくれる。
象平さんの器に料理を盛る
「普通、青は食欲を減退させる色ですが、象平さんの青い器はそうではない。
料理をおいしそうに見せてくれるんです」とせつこ。「青の器に限らず、どの器をとってもラインが絶妙で、料理を盛りたくなる形をしているの」
「これ使えますか?」と象平さんがせつこに渡したのは、ご近所さんのおすそ分けだというゆず果汁の瓶詰め。さすが柑橘王国。
料理の器といえば、料理が映え、長く使える形に重きを置く作家が多いが、象平さんはちょっと違う。
「長く愛でるというより、瞬発的にでもいかに美しいと思わせることに集中しているのかな。物体としての立ち居振る舞いが美しく、口元に緊張感があって、高台に色気があるかとか。青が特別好きというわけでなく、高知の土の中の鉱物を引き出し結果が青だったんです。僕の器は使い方は自由なので、好きな洋服をあわせるように、その方の感性で選び、使ってもらいたいと思っています」
そんな象平さんの器を感じながら、せつこが料理を盛る。どれも素材にあまり手をかけず、お酒が好きだという象平さんのセンスを汲み、高知の海と大地を感じられるものを。
リムのある黒化粧の鉢に、りゅうきゅうと十六ささげのゆず香和えを盛って。
お猪口はシルバーアクセサリーの感覚に近いと象平さん。もっとも呑み心地は大切で口もとの造作は気を使うポイントだとか。日本酒は、近所の酒屋が地元の亀泉酒造につくってもらっているオリジナル。
立派な鹿の骨付き肉は、鋳鉄のフライパンでじっくりソテー。掻きあとを大胆に残した「指描き」の深皿が、野生を宿すジビエに似合う。
高知の清流が生む青のりを混ぜ込んだおむすび。ニュアンスのある器の表情が川底を思わせる。
旬のイチジクを青灰釉の器に。ゴッホの絵に出てきそうな美しい色合い。
「器は料理の着物」とは北大路魯山人の言葉だが、器は、料理や、ときには食材そのものを引き立てる名脇役になる。
あるいはまた、そこに料理が盛られることで、器はより色気を増すように思う。
象平さんの個展が、10月15日より鎌倉の「うつわ祥見KAMAKURA」で開催される。
青灰釉、黒志野釉に加えて、今回使わせてもらった新作の指描き、黒化粧などの器が多数並ぶので、ぜひ足を運んでほしい。日々を豊かに、料理を引き立てる器との出合いが待っている。
藁焼きカツオの塩タタキ
■材料(作りやすい分量)
カツオ(タタキ用、皮つき) 1節
薬味(ニンニク、ショウガ、大葉、ミョウガ、小ネギなどお好みで) 適宜
柑橘(ユズ、スダチ、カボス、ブシュカンなどお好みで) 適宜
塩 少々
■作り方
1 カツオに3〜5本の串を扇状に打つ。
2 ソロストーブなどに火を起こし、藁をくべて炎を上げ、カツオの皮目からあぶる。皮に焦げ目がついたら裏返し、身の色が変わったら引き上げて余熱を取り(氷水に取ると水っぽくなるので、保冷剤を布巾に包んで当てるのがおすすめ)、冷蔵庫で冷やす。
3 一口大に切って塩をふり、たっぷりの薬味と共に器に盛る。
りゅうきゅうと十六ささげのゆず香和え
■材料(作りやすい分量)
りゅうきゅう 1本
十六ささげ 2本
ユズ果汁 大さじ1
塩 少々
ユズ皮(すりおろす) 適宜
■作り方
1 りゅうきゅうは手で皮をむき、5cm長さの短冊に切る。十六ささげはさっとゆでてザルに上げ、5cm長さに切る。
2 ボウルに1を合わせ、ユズ果汁、塩、ユズ皮を加えて和える。
■今回使用したUPIアイテムはこちら
スウェーデンの鋳物ブランド「スケップシュルト」のフライパン。厚みがあり蓄熱性が高いので、鹿の骨付き肉のように芯までじっくり火を入れる料理にうってつけ。
>>SKEPPSHULT「トラディショナル フライパン 18cm」
ソロストーブは、2重壁により2次燃焼を起こし、燃焼効率が高いのが特徴。大小いくつものサイズがあり、「キャンプファイヤー」は本格的な調理ができる火力を得ながら、直径約18cm、重量約1kgと手軽に持ち運べるのが魅力。
UPIのメンバーが、こんなレストランがあったら!を体現してみた一日限りの架空のレストラン。毎回ゲストシェフを迎え、UPIナビゲーターシェフ寒川せつこ(北欧ソト料理家)と共にお客様をもてなします。
人と場所、その季節の旬の食材など、一期一会から生まれる料理はどんなものになるだろう。客席には焚火や暖炉などの火があるといいな。そこからコミュニケーションが生まれ、ときには沈黙の時間があるかもしれない。そんなステキな時間に寄り添う料理でありたいね。
二人の料理人のメニューミーティングは、それは楽しく、新たな発見でいっぱいです。次回はどんなゲストが登場し、どんな料理がメニューにのるか、どうぞお楽しみに!