日差しが照りつけた今年の8月、汗ばむ陽気の真っ只中、SKEPSHULTというひとつのブランドのストーリーを探しに、岡山県倉敷市を訪れた。
倉敷市といえば、文字通り、白壁の蔵造りの街並みに、歴史をイメージする人は多いだろう。かつては江戸幕府の直轄地として周辺の政治や経済をまとめる役割を担う傍ら、地場産業である綿の問屋が軒を連ね、商人が行き交う大変な賑わいの街であった。
その後、西欧の紡績技術を取り入れ繊維産業の街として、そして、今でもジーンズの街としても有名な街であり、自然も豊かで和と洋が調和した美しく歴史の深い街、それが倉敷である。
和において、洋の歴史ある製品の深掘り。今回の記事において、まさに巡り合わせのような街である。
その倉敷市にある、フランス料理のお店「LE PONT NEUF(ポン・ヌフ)」でお話を伺ってきた。
ポン・ヌフとはフランス語で「新しい橋」という意味であり、セーヌ川で一番最初にかかった橋の名前である。
ポン・ヌフは倉敷の街から少し離れ、豊かな自然に囲まれた場所にあるお店。本格的なフランス料理ながら、気構えなく、気軽に、料理を楽しんで頂きたいというオーナーシェフである 小野 康久 氏 の想いが詰まったお店であり、来年には40周年を迎える。
お料理を一口含んだ瞬間に、それまでどんな気分だった方も思わず笑顔がでる料理とサービスをお届けできるレストランとして、皆様の「人生に寄り添うレストラン」でありたいという、深さとあたたかさが感じられるお店である。
幹線道路沿いに突然現れる煙突のあるオシャレな外観の建物は、広々とした駐車場で誰でも入りやすい。そして、一歩店内に足を踏み入れると、そこはレンガの暖炉と重厚感のある柱や梁を有する木造の店内に、風格とあたたかさを感じるとても素敵な空間である。

今回は、その小野オーナーが見守る中、ポン・ヌフを最初に、料理界に飛び込んで4年という早さでグランシェフに次ぐスーシェフ(副料理長)として活躍する 平田 恭之 氏 にお話をお伺いしてきた。
休日には様々なレストランに足を運び食べ歩くなど、その探究心と勉強熱心さは小野オーナーの折り紙付きであり、平田シェフについて語る小野オーナーの眼差しには信頼と自信が伺える。
その成長のスピードから平田シェフの経歴は、さぞ、料理と向き合ってきた半生であったと想像していたが、それは大きく覆された。
なんと、工業高校出身で、宮大工として働いていた経歴の持ち主で、宮大工から離れてポン・ヌフの門を叩き、そこから4年で今の立場であるというから驚きである。
しかし、考えてみれば共に職人であり、素材は違えど、道具を持って素材を生かし、仕上げるといったものは同様である。
きっと、その探究心と熱心さは元々の職人気質として携えていたのでろう。それは不思議な巡り合わせであるも、導かれるべくしてこうなったに違いない。実に稀有なシェフであり、今回の取材をより深くする話題であった。
この両氏にSKEPSHULTを通じて道具について語ってもらったことは、とても有意義で貴重な機会であったことは想像するには容易であろう。

さて、ここからが道具にまつわるお話である。
厨房にはたくさんの道具が準備されており、鍋だけをとっても素材や形状で様々な種類がある。それ以外にも、素人では揃えないような道具の数々。今回は僭越ながらそれらが並ぶ、プロフェッショナルな空間にお邪魔させていただいた。

まずは、平田シェフ自身の愛用する道具について伺ってみた。
そこで、出してきてくださったのが、愛用する包丁であった。元々が大工ということもあり、刃物が好きであり「メンテナンスが好きで今でも大工道具を大事に磨いたりしている」とのこと。
包丁も同様で、そこに対する考え方や拘りはもちろん、その扱い方に職人の気質を感じる。実際に、よく磨がれており、常に万端の準備がなされていた。

包丁を手にした際の平田シェフとその包丁の一体感が印象的で、道具と使い手の関係を垣間見た気がした。
これこそが、SKEPPSHULTの在り方にも言えることであり、伝えたいことでもある。

SKEPPSHULTは1906年にスウェーデンで創業し、北欧では唯一の100年以上続く老舗の鋳鉄の調理道具を製造している会社である。
その製造には北欧らしく水力や風力などの自然エネルギーのみを使用し、素材も厳選な審査で選ばれている純鉄に拘り、そのひとつひとつが鋳型に流し込み成形する昔ながらの手作業により製造されている。
その重さは他のブランドと比べても実に重く、それが密度の違いで鋳鉄の最大の特徴である蓄熱性の高さと耐久性の裏付けでもあり、その性能の高さは他とは一線を画しミシュランシェフなどプロフェッショナルも使用する拘りの逸品である。
世代を越えて受け継がれる道具であり、まさに一生モノと言える。

平田シェフはシーフードリゾットを作るのに、16角形が特徴のヤーンキャセロールを選んだ。
その蓄熱性の高さ故に、急激な温度変化がなく安定して熱が入り、焦げ付かずに絶妙なリゾットが完成する。蓋もあることで、煮込み系から炊飯までと幅の広い調理が可能となる。
また、鋳鉄は全体に均一に熱が入るため、焼きムラや炊きムラがないのが特徴と平田シェフは言う。

その特徴である高い蓄熱性は、調理中のゆとりにもつながると平田シェフは教えてくれた。
鋳鉄鍋は調理中に放置が可能なことで、それ以外の作業を行うことが出来て、結果的に忙しい時には重宝するとのこと。家庭の料理でも、同様にとても有効である。
実際に、シェフは3種類の料理を同時進行で作っており、どれも絶妙なタイミングで仕上がっていた。

リゾットを火にかけ、その傍らで調理を進めていたのがこちらの「夏野菜とスズキのポワレ」である。
白身の魚を手際よく捌き、予熱していたフィッシュパンに皮目を乗せて焼き目をつける。素材を乗せた際にも、温度が下がらない為、その焼き目も実に鮮やかでありパリッとしている。
その後、温度を調整してひっくり返して焼いていくのだが、時間をかけて火を通すことでふっくら仕上がる。
この作業も通常のフライパンであれば目を離せず、少し間違えば焦げてしまうし、この彩りの野菜達も温度が上がってしまうと、色が褪せて味も変わってしまうという。
じっくりと熱が入ることで、見た目はもちろん、ジューシーさと素材の味が凝縮されるのである。
スケップシュルト オリジナル フィッシュパン

最後に振りかけたスパイスは、コリアンダー・フェンネルのシード・ホワイトペッパーをホールで入れて、スパイスミルで挽いていく。愛らしいフォルムで手なじみ良く握りやすい。鉄の重さと独特な凹凸も相まって、絶妙な引き具合でスパイスの良い香りが広がっていた。
スケップシュルト スウィング ペッパースパイスミル

そして、最後の料理がこちら、「国産牛頬肉の赤ワイン煮込み」である。
オーナーの小野シェフの得意料理で、目の前で作るのには若干の緊張があるとのこと。
硬い頬肉は形が崩れることはないのに驚くほどに柔らかくジューシーであり、人参は食感を保ちながらも甘みが強調されていた。
じっくりと均一に全方向から熱が入ることで、高温にし過ぎずともじっくり仕上がる。まさに鋳鉄ならではの効果であろうか。仕上がった後も蓄熱の良い鋳鉄は、保温が効くためテーブルに乗ってもしばらくは温かいままであったのが印象的であった。
そう、このどちらの料理も、鍋ごとテーブルに運ばれるのである。これらの絶品料理を重厚感ある鋳鉄の鍋達がさらなる迫力を演出するのである。
彩りも鮮やかで、温かさもキープされ、見た目も美しく、そして、どの料理も唸るほどに美味しかったことはいうまでもない。
このようにして、鋳鉄であるスケップシュルトはプロの料理人にも使われており、その能力を遺憾無く発揮しているのである。

それでは、一般の家庭での料理にはどうであろうか。
この鋳鉄の鍋というと、洗剤が使えなことや、錆のことが気になり、メンテナンスなどの手間がかかるイメージが強いというのはよく聞く言葉である。
洗剤を使わずにお湯を使いブラシで汚れを落とし、その後、改めて火にかけて温めたのち、冷ます際に油を塗って完了。
実際は鉄のフライパンのユーザーが増えている中で、そう大きく変わらず、慣れてしまうと気にもならない程度である。
また、使い込むことで油が染み込み、ブラックポットという状態に仕上がり、錆びにくく焦げ付かなくなる。そこを目指して、長きに渡り使い続けることこそが重要なのであり、まさに世代を超えての一生モノであり、深い愛着も育まれるに違いない。

おふたりにも片付けについて伺ってみた。
返ってきた言葉は「感謝」であった。商売の道具であり、これがないと仕事が出来ない故に、常に感謝をしながら全ての道具や厨房のメンテナンスを行うと言う。
そして、長く使えることの利点も語ってくれた。
道具とは、それぞれにクセがあり、長く付き合い、身体がそれに慣れることで安定したパフォーマンスを発揮できると言う。また、日々のメンテナンスも踏まえて道具への愛着にも繋がり、その道具を使うことで自身のモチベーションも上がるのである。
適材適所で銅や鉄パンや鋳鉄など使い分けはあるが、どれも長く使えることは正義と言えるのではないだろうか。
最後に平田シェフにとって道具とは?と問いかけると、それは「宝物」であると。
「幼少の頃におもちゃ箱に入っていたおもちゃ達のような感覚・・・、大切なもの、宝物です。」と・・・。
大工を経て、道具の大切さを人一倍感じている平田シェフだから、よりその言葉に重みがある。

さて、今回の旅で出会ったSKEPSHULTのストーリー。それは“人生に寄り添うレストラン”「LE PONT NEUF(ポン・ヌフ)」での絶品料理と、お客様への温かく丁寧なおもてなし。そして、それを生み出す道具に対する愛情であった。
その大切な道具と成るに値する料理道具、それがSKEPSHULTの鋳鉄の道具達であり、その実力と素晴らしいプロダクトであることに改めて気付かされた旅であった。
皆様もこの機会に本当の一生モノと共に、日々の暮らしを温かく豊かにしてみてはいかがでしょうか・・・。
末筆にはなりますが、お忙しい中、私達の取材を受け入れ、おもてなし下さった小野オーナーはじめ、平田シェフ、そしてポン・ヌフの皆様に心より感謝を申し上げます。

住所
〒701-0111 岡山県倉敷市上東516-7
TEL
086-462-8300(Restaurant)
086-464-5511(Wedding)
Lunch 11:00〜15:30(Lo 14:00)
Dinner 17:30〜22:00(Lo 20:00)
定休日
水曜日 第2火曜日 ※詳細はカレンダー参照
URL
https://pontneuf.jp/restaurant/
TEXT:GOTARO TAMEIKE
PHOTOGRAPHY:MITSUHIKO HONMA



