UPIとオンネトー。第3回「夏の風景、夏の遊び」

真夏の陽射し、秋の空気。

 真夏の朝。蒸し暑い東京から、飛行機に乗って北海道へ。釧路空港で車をレンタルし、オンネトーに到着すると、Tシャツの上に何か一枚羽織りたくなるような空気に包まれる。

 ついさっきまで、サウナのような東京にいたのに、3時間後の今、スカンジナビア半島の森にいるみたいだ。

 僕はバッグからウールパワーのクルーネック・ライトを取りだして、Tシャツの上に着た。陽射しはとても強いが、木陰に入るとひんやり涼しい。

 アカエゾマツ、トドマツといった針葉樹に、広葉樹が混ざるオンネトーの森。奥に入ると鬱蒼として暗いが、道沿いや湖畔にはシラカバが立ち並び、木洩れ日が美しい。8月でも、新緑のように明るい。

 そう、この感じ。幾度も旅をしてきた北欧、アラスカ、カナダとよく似ている。真夏の光はとても強烈なのに、空気はまるで秋のようなのだ。夏でも、汗をかくことがほとんどない。

 「UPIオンネトー」に着くと、店の前でニール君(スタッフのニール・ククルカ)が薪割りをしていた。「いい天気だね」と挨拶代わりに言うと、「いやもう、サイコーですね」と笑顔が弾ける。天気が良すぎて、店の中にはいられないのだろう。

 それでも、午後の太陽が傾く頃には、店内中央の薪ストーブには炎が揺れる。真夏でも薪は必要だ。夕暮れの時間や、雨の日など、寒さを感じる。そして秋のために、時間があるときに薪割りをしておかないといけない。(北海道では、薪割りは夏の仕事だ)

 カウンターにいる押谷店長、スタッフの菊地美姫さんへの挨拶もそこそこに、湖の方へ急いで下りていったのは、湖畔に立てられたSAVOTTAのサウナテントから煙が上がっているからだ。この日、サウナ・インストラクター東海林美紀さんのガイドによるサウナのイベント「SAUNA TREK」がおこなわれていた。オンネトーでの、夏の新たな遊びが始まっている。

 

夏のオンネトーに遊ぶ人々。

 翌日は朝から、「UPIオンネトー」と、湖畔の野営場を往復しながら、オンネトーの夏を楽しむ人々に話を聞いた。

 関東からやって来た女性ふたりと男性ひとり。3人は「自然が大好き」で、「昔、アフリカ旅行中に知り合って」意気投合。その後、国内外を何度も一緒に旅しているという。今回は、男性が「サクラマスを見たい」ということで、道東を一緒に旅しているところ。

「60年くらい前に初めてオンネトーに来たとき、独特の雰囲気を感じたことを覚えている」と語る男性。女性のひとりは「初めてオンネトーに来ました。とてもきれいな場所ですね」と楽しそうに語った。男性は、UPIの人気商品、サスタのアウターを購入。

 東京でIT関係の仕事をしているという男女4人の中国人たちは、数年かけて「日本百名山」を登っているという。「もう88座、登ったよ」と胸を張った。

「昨日は幌尻岳、そして今朝、雌阿寒岳を登頂してきた。幌尻岳はキツかったけれど、雌阿寒岳は登りやすくて、きれいな山だったね。森がとても美しい。山の下半分が森で、上へ行くと乾いた火山の風景がある。変化があって楽しかった」

 4人は、「百名山のうち、北海道の山で残っているのはあと2つだけ」という。「斜里岳と羅臼岳に登れば、北海道の百名山は制覇。でも、中国にいるときには登山をしたことはなかった。そもそも中国には登山のカルチャーがないんだ。日本人は登山好きが多くて、みんな楽しそうだなと思ったのが、(登山を)始めたきっかけ。どの山も、トレイルやルートがきちんと整備されていて、宿泊施設や温泉もたくさんあって、日本の登山は素晴らしいと思う」

 オンネトー野営場には、キャンプ道具を積んでやって来るバイカーも多い。夏の北海道をロング・ツーリングすることは、バイク乗りにとって憧れだろう。

 静岡から700ccのオートバイでやって来た男性は、休みをとって2週間ほど北海道を旅しているという。

「静岡から仙台までバイクで走り、そこからフェリーで苫小牧へ。ニセコに寄ってから宗谷岬まで行き、オホーツク沿岸を知床へ。そして今は、道東をうろうろしています。毎年、北海道、東北、九州という3つの場所をバイクでツーリングします。基本は晴れたらキャンプ、雨が降ったら民宿や旅館に泊まって。サウナが大好きなので、サウナがある宿を探します」

「ここには何度も来ています。オンネトーは、風がないと湖面が鏡のようになり、とても美しいんです。写真が好きなので、何度も写真に撮りました。それにしても、電話が通じない森の奥に、こんなオシャレできれいな施設ができていて、今日はとてもびっくりしました。いいですねとっても」

 そしてもうひとり、やはり大型バイクで、キャンプ道具一式を積んで旅している男性がやって来た。彼は、「UPIオンネトー」でコーヒーを飲んで雨宿り(この日は正午過ぎまで雨が降っていた)。雨が上がったのを見計らって、野営場にテントを張った。

「オンネトーは、バイク仲間からすごくいいよってずっと聞いていて、今回初めて来ました。群馬県からバイクで新潟へ。フェリーに乗り、小樽から入って、宗谷岬へ。その後は時計回りに北海道を走っていて、今日で4日目」

 木立の向こうに青い湖面を眺めながら、缶ビールで和んでいる彼は、「バイクで旅するのが好き」と微笑みながら語った。

「バイクで旅してテントに泊まるのが好きです。ツーリングしてキャンプするのは最高です。バイクのいいところは、自分だけになれること。ひとり、自由。それがいいですね」

 70代後半と、80代前半の、女性クライマーふたりは、朝、雌阿寒岳へ。下山してきて、「UPIオンネトー」でおにぎりのランチタイム。買い物をしなくても、誰でもここは自由に使える。明日、雄阿寒岳に登るという。

「UPIオンネトー」には、UPIが扱う魅力的なアウトドアの道具や衣服がいくつも並んでいるが、販売以外にも大切な役割がある。ここは、オンネトーでキャンプする人たちの、野営申込所であり、このエリアの楽しみ方や注意事項をガイドする施設でもある。下山してきた人や、野営で連泊という人たちが汗を流せるようシャワーもある(有料)。建物内にはフリーWi-Fiがあるので、撮ってきた写真をSNSにアップできるし、地ビールやコーヒーを買って飲むことも可能だ。もちろん、手持ちの弁当やスナックを開いてもかまわない。ここは、北の森の奥にある、休息地である。

 そして、「UPIオンネトー」は、ローカル=地元の人たちにとっても、真新しい、ワクワクする場所のようだ。

 男性が足寄町出身というカップルは、夏休みで帰省中。この施設の話を聞き、「買い物ついでに行ってみよう」とオンネトーにやって来た。

「仕事で東京に住んでいますが、年に一度くらい帰省します。足寄の町からここはけっこう遠いので(足寄の町からオンネトーは車で50分前後)、数えるくらいしか来たことはないです。オンネトーは、町に住む僕らにとって、遠くの不思議な場所、というか。湖や森が独特ですよね。静かな気持ちになって、心が落ち着ける場所というか」と男性が言葉を選ぶように語ると、一緒の女性が言葉を継いだ。

「オンネトー、好きです。山も森もいいですね。湖面の色が独特で、ふつうの湖とちょっと違う感じがします。ここでハンモックが借りられると聞いたので、今度やってみたいなと思いました」

「UPIオンネトー」のスタッフのひとり、菊地美姫さんは、阿寒湖にある「阿寒ネイチャーセンター」のガイドでもある。阿寒湖畔にオフィスがあるネイチャーセンターの隣は、老舗の「温泉民宿 山口」。この日、その民宿山口を営む女性がやって来た。美姫さんとは仲良しだという。

「近いのに来る機会がなかなか作れなくて(阿寒湖からオンネトーは車で20〜30分)、今日初めて来たら、美姫ちゃんがいてびっくり。キャンプ好きな友だちがいるから、贈り物にと今日はこれ(モーラナイフ コンパニオン)を買いました。ここ、すごく素敵ですね。もっとみんなに知らせないと(笑)」

 ネイチャーガイドでもある菊地美姫さんは、地元では「キノコマニア」として知られる。この日も、休憩時間にモーラナイフを持って近くの森に入っていき、見たことのないキノコを採ってきた。

 そして、「UPIオンネトー」の立派なキッチンで早速ソテー。オリーブオイル、塩コショウだけで、とても美味しい。

「これはタマゴタケ。最初、白い被膜に包まれていて、その姿は白いタマゴみたいなんです。で、被膜を破って出てきて、キノコの形になる。オムレツにすると美味しいんですよ」と美姫さん。

「これから秋に向けて、キノコ狩りも楽しい。春や初夏の山菜採り、秋はキノコ。オンネトーには、四季を通じてアウトドアのいろんな楽しみ方がありますよ」

 登山、ハイキング、ツーリングとキャンプ、キノコ狩り、サウナ、他にもいろいろ。旅人もローカルも、夏のオンネトーをたっぷり楽しんでいる。よし、それならば!と僕も思った。青空が広がるこの日、「UPIオンネトー」で扱っている道具を借りて、アウトドア・クッキングを楽しもう。

 ソロストーブ キャンプファイヤーで火を熾し、発売になったばかりの新プロダクト、スケップシュルト トラディショナル フライパンで作ったのは、スウェーデン伝統の家庭料理「ピッティパンナ」。オンネトー風ということでラム肉を使った。ちなみに僕のピッティパンナは、ストックホルム、セーデルマルム島の、スルッセン駅前にある老舗食堂「ブラ・ドーレン(Bla Dorren)」インスパイア。

 そして、TAKIBISM JIKABI(L)と、スケップシュルト オリジナル フィッシュパンで、スカンジナビア・インスパイアの、「サーモンとキノコの香草焼き」。

 さらに、重量感たっぷりのスケップシュルト ヤーン キャセロールなら、きっと最高に美味しいご飯が炊けるだろうと思い、夏の北海道インスパイアの「トウキビご飯」を。この小さなキャセロール、サイズがソロストーブ タイタンにパーフェクトだ。

 ほどなく、ニール君、そして、美姫さんが、順番に食べに来て、オンネトー野営場でのUPIアウトドア・ランチタイムとなった。自分も少しだけ「オンネトーの夏の遊び」にジョインできた気分になり、かなり満足。もちろん、味とお腹も大満足だった。

 8月も半ばを過ぎた。道東にはもう間もなく秋がやって来る。秋色に染まったオンネトーの森は実に美しい。キノコにベリー、秋の山菜も採れるだろう。次は、「秋のオンネトー」で遊ぼう。

PHOTOGRAPHY BY YUKO OKOSO
TEXT BY EIICHI IMAI

大社優子 (おおこそ・ゆうこ)
大社優子 (おおこそ・ゆうこ)

写真家。横浜・アマノスタジオにて森日出夫氏に師事。独立後、様々な広告写真やドキュメンタリー、出版物を手掛ける。現在に至るまで個展、企画展などを各地で開催。“DARK ROOM PHOTO SESSION”というテーマをその都度変えたポートレイト撮影会も行っている。鎌倉在住。

今井栄一(いまい・えいいち)
今井栄一(いまい・えいいち)

フリーランス・ライター&エディター。旅や人をテーマに国内外を旅し、執筆、撮影、編集、企画立案、番組制作・構成など。著書に『雨と虹と、旅々ハワイ』『Hawaii Travelhints 100』『世界の美しい書店』ほか。訳書に『ビート・ジェネレーション〜ジャック・ケルアックと歩くニューヨーク』『アレン・ギンズバーグと歩くサンフランシスコ』など。