長野修平さんのドームハウス補修作業に密着
ネイチャークラフト作家の長野修平さんの自宅裏手には、山林を生かした自然の敷地が広がり、斜面の中腹にはセルフビルドによるドームハウスが建っています。
およそ3カ月掛けてDIYで建てられたこのドームハウスは、長野さんを訪ねてくる大切な友人たちのためのゲストハウスであり、そして遊び心あふれる大人の隠れ家。
材料も外から運び込むのではなく、できる限り、敷地の山林内で入手できる自然材や廃材を活用しているのも、ネイチャークラフト作家としてのこだわりだと言います。
たとえば、エントランスの敷石は、傾斜地を掘削したときに出てきた小石で、デッキを支える柱は、敷地内の山林で伐採したクリやケヤキの幹の二股部分。それを防腐のために表面を焚火で炭化させ、地面を1m以上掘って埋め込んでいます。また、とても趣のある外壁は手作業で割ったヒノキ板を張ったもの。屋根は同じくヒノキの樹皮で葺いてあります。
このドームハウスのDIY建築に際して長野さんは、大きな部分では海外のビルダーのようにチェーンソーや電動工具も使いつつも、屋根や内外装の造作、棚や手すりなど細部の仕上げには、モーラナイフのワークナイフシリーズを使っています。
このドームハウスも完成して1年ほど経ち、いくつかのメンテナンスが必要になってきたということで、今回は長野さんの作業に密着しながら、ナイフワークの実際を解説していただきました。
01 外壁を修繕する
外壁にへぎ板を貼るときは、現場合わせで幅を整えるのですが、そのときにプロロバストで削ります。ナイフを使わない場合はナタになるのですが、ナタだと大きくて、小回りも効かないじゃないですか。その点、ナイフならナタのようにも使えるし、もちろん、ナイフとしても手軽に使える。
このプロロバストは刃厚のある頑丈なナイフなので、ツーバイ材をガツガツ削るときにもよく使いますし、バトニングのように叩いて使うこともできます。
ちなみに、へぎ板はこの辺で伐採したヒノキを手作業で割ったものです。板の上の部分だけを留めて、重ねるように張っていきます。こうすると、雨が降ると湿気を吸った板が拡張して密封性が上がり、晴れると乾燥して開き、空気を取り入れて中の湿気を乾かす。「よろい張り」と言って、古くから日本にある造り方です。
02 屋根を葺く(ふく)
屋根は「檜皮葺(ひわだぶき)」といって、これもヒノキの樹皮を割いたものを重ねながら葺きます。
ルーフィングフェルトナイフは、ルーフィング用の防水シートとフェルトをカットするための専用ナイフですが、こうして樹皮を削いだりするのにも便利。屋根を葺くときには欠かせない1本です。ルーフィング材もヒノキの皮も、通常は屋根の上で合わせながらカットします。
僕の場合はクラフト用のレザーをカットしたりするときも使うし、あとは山菜採りに非常に使い勝手がいい。ステンレスなので湿気や汚れを気にせず使えますしね。
03 ノミのように使う
プロチゼルはノミのように使えるナイフです。鴨居の調整をしたり、ほぞを作ったりするときによく使っています。
合板を使った建具だとまず糊がダメになっちゃいますが、この木戸はムク材でできているから雨に強いんですよ。ただ、雨で拡張すると動かなくなるので、どうしても鴨居の微調整が必要になる。そのときには、このプロチゼルの出番です。
ナイフなので手で削るにはノミより使いやすいし、金づちや木づちでトントンと叩いてやることもできる。ただし、叩く面は樹脂なので、ある程度、力の加減は必要です。
04 樹皮や塗料、接着剤を剥がす
薄刃でしなるプロフレックスは、必ず1本は持っておきたいナイフです。出番はそれほど多いわけではないんですが、コイツじゃなきゃダメだという作業が必ずでてきます。
内壁に貼った板の、剥がし損ねた薄い樹皮や、はみ出した塗料や接着剤などは、ブレードをしならせながら削ぐようにすると剥がしやすい。もちろん、隙間やコーナーなど通常のナイフが入りにくい個所の作業とかね。
あとは、スタイロフォーム(断熱材)をカットするときも、このプロフレックスを使っています。波刃をはじめ、いろいろ試してみたのですが、これが一番切りやすいし、切り口もきれいです。
05 仕上げに使う
プロプレシジョンは、細かい細工によく使います。どちらかというと、グリーンウッドワーク用のカービングナイフに近い使い方なんですが、あちらはもっと繊細な道具なので、工具と一緒にできないんです。また、これは腰につけて高所作業にも持って行ける点も大きな違いです。
内装の仕上げにもよく使います。たとえば、面取りには刃の幅が狭いナイフがいいんです。プロロバストのような大きな刃だと、刃が深く入って削り過ぎてしまいますから。
普通の大工さんならカンナを使うところです。しかも、取り付ける前にやる工程ですね。でも、平らなところはカンナでもいいけど、こういう波打っているようなところを削ろうと思うと、カンナでは無理なので、このプロプレシジョンの出番です。
作業中のナイフは刺して立てておきます。キャンプでもそうですが、立てておけば、次に使うときもすぐに手に取れる。そのへんに転がしておくのも危ないですしね。
06 梱包材を開封する
ユーティリティは段ボールの梱包開けに便利なので、日頃の生活のなかでよく使うナイフです。段ボールをリサイクルに出すときも、これで切ったりしています。
カッターのように、いちいち刃を出し入れしなくて済むから、思った以上にストレスなく使えますし、刃の反対側が丸めてあるので安心です。
ほかには、ホームセンターで買ってきた材料のパッケージを開けるときにもよく使います。覆ってあるビニールを切って開けるのにちょうどいいんですよ。
07 電気コードの被膜を剥く
エレクトリシャン
頻繁に使うものもあれば、用途が特化したものもあります。エレクトリシャンは電気配線のコードを剥いたり、ワイヤーを切断するときに使うナイフです。
ただ、エレクトリシャンは意外と刃が鋭利なので、たとえば、外壁の内側に貼るタイベックの白いシートを切るときにも使ったりしています。
08 ロープを切る
これはロープを切りやすい波刃です。太いロープを切らなきゃいけない場合も多いんですが、どちらかというと、梱包用の麻のヒモを切るときなどに便利です。波刃ですが、片側から刃を付けているので、普通に研げば、波刃が起きるようになっているのがまたいい。
ただ、僕は、ヒモは切らずにほどくことが多いんですよ。荷物が届くと、ていねいにヒモをほどいてまとめておいて、また次に使う性格です。梱包材も段ボールも再利用できるものはなんでも取っておいてリユースする。1回でも2回でも再利用できれば、それだけ生産も減りますしね。
ウチの祖母がそうだったんです。それを見て育ったから、そういう癖が付いています。昔はヒモを切ると貧乏になると言われていました。植物や動物から繊維を取って、それをよって糸を作り、何本も何本も紡いでいくと、初めてヒモができる。1本のヒモを作るって、ものすごく大変だったんですよね。
09 マイナスドライバーとして使う
マイナスのネジを回すときによく使うのが、このプロセーフ。最近はマイナスのネジが少ないので、マイナスドライバーを工具に入れることが意外とないんです。これなら安全ナイフとしても、マイナスドライバーとしても使えるし、缶を開けるときにも便利。
この缶のなかには、自分で作った鹿の油を入れています。20回くらい水を取り替えながら鹿の油を煮て、精製したものです。レザー製品の手入れや撥水剤、スキンケアにも使える。中国では、火傷や切り傷にも使っています。
10 シースを連結させる
モーラナイフのワークナイフシリーズは、シースを連結できます。たとえば高所作業で4本持って行きたいとき、2連にして2つ付けていけばいいし、瞬時にどれでも取り出せるのが一番のメリットです。また、ナイフの種類毎にグリップが色分けされているので、慣れれば、必要な1本を迷わず手に取れます。
作業が進んで、そろそろ別のナイフがほしいとなったら、中味だけ入れ替えればいい。シース同士がしっかりロックされるので、屋根に上がって作業していても落ちるってこともありませんしね。
シースの連結は、突起を差し込んで、少し捻るとロックがかかり、突起部分を押しながら捻って引くと外れます。ベルトや腰の道具袋にシースを挿しても、突起がついているので簡単に落ちません。
DIYでナイフを使う魅力とは
欧米のビルダーは、Ⅰから100までひとつのチームで作っていくパターンが多いんですが、日本は、鳶、大工、建具、内装、壁紙貼り、塗装……といったように完全に分業化されています。それぞれの工程で使う工具を徹底的に突き詰めてきましたから、日本の工具には専用のものが多いんです。逆にいえば、ひとつの目的にしか使えない。
そのぶん、ワークナイフは専用ではありませんが、ある程度万能です。ノコギリやノミ、木づちや金づちといったいろんな工具が必要なところを、1本でそれに近いことが、粗くできてしまう。そのうえ、キャンプに持って行ったり、ブッシュクラフトでも普通に使える。そういう良さがありますよね。DIYビルダーにとってのナイフは、そうした汎用性の高さが一番の魅力です。
TEXT: CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHY: YUKO OKOSO