TAKIBISMが生んだ銘品フライパンディッシュと、焚火がある風景

3サイズが揃ったフライパンディッシュ

TAKIBISMのフライパンディッシュに、新たに「大」が加わり、大・中・小の3サイズが勢揃いした。この「大」の直径は約2525.5cmということで、大ぶりなステーキを豪快に焼いたり、メインと付け合わせを一緒に温めたりと、なかなか使い勝手が良さそうなサイズ感だ。

フライパンディッシュはすべてサイズ表記に5mm前後の幅を持たせている。これは11枚職人が手作りしているからこその誤差だ。いわばハンドメイドの証。最終仕上げも手作業で行うため、表面の質感にも個体差があり、一点ずつ味わいが異なる。金属の皿なのに、まるで窯出しの陶器のようだ。

開発当初は金型もなく、一枚一枚叩き出しで作られたという。真っ赤になるまでコークスの炉で熱した鉄の平板を、ハンマーで叩いて曲面を形づくっていく。それを4回、5回と繰り返すことで、皿の形に整えていくのだ。当然、製品としては日産枚数も限られ、職人の負担も少なくなかった。

そのため、製品化に際してプレス製法を導入するのは必然だったのだが、今なお、手間のかかる技法を要するハンドメイドの工程を可能な限り残しているのは、槇塚鉄工所とTAKIBISMブランドのこだわりであり、大量生産品を作っているわけではないという、職人一人ひとりのプライドでもある。

一つ一つ表情の違うフライパンディッシュ。

 

フライパンディッシュとは調理器具であり、皿である

焚火でこしらえた料理を火から下ろして、そのまま野外のテーブルでいただく。それはもうキャンプの醍醐味であり大きな楽しみだ。そこでウエスタンスタイルのフライパンやスキレット、ダッジオーブンが活躍するわけだが、このフライパンディッシュはもう少し手軽で、繊細にして美的である。

フライパンより小径で、なにより、取手がないからテーブルの上で収まりがいい。違う料理を別々に並べたり、人数分を小分けでサーブすることもできる。ただ、皿として考えれば、これは当たり前だ。

JIKABI LにのったフライパンディッシュとTAKIBISMファミリー。それだけで、豊かな野外の食卓が出来上がる。

調理器具という面でも、焚火にかけたときに五徳に乗せやすく、ソロキャンプ向きの小さな焚火台にも無理なくフィットする。また、一度に何枚かを乗せて、同時進行で複数の料理を作ることもできる。もちろん、1枚の重さはスキレットよりはるかに軽量だから、扱いは軽やかである。

取手がない調理器具といえば、日本料理の職人が重宝しているやっとこ鍋がある。取手のない雪平鍋といったほうがわかりやすいかもしれない。取手の取り付け部がないから熱が均等に回りやすく、複数の火口に乗せても邪魔にならない。そのうえスタッキングできるから収納も省スペースで済む。

”やっとこ鍋”のメリットは、そのままフライパンディッシュにも当てはまる。さらにいえば、いったん熱くなると冷めづらいという鉄器ならではの特徴や、余熱調理に最適というさまざまな機能性も挙げられるが、このフライパンディッシュの持ち味はもう少し趣味性に寄った部分にある。道具としてはフライパンやスキレットよりも小粋な使い方が可能で、創意工夫による奥行きは深い。

 

フライパンディッシュの使い方

使い方といっても、特別なことはなにもない。あらかじめシーズニング済みなので、丁寧に包装された油紙を開いて(このパッケージングも美的感性を大いにくすぐる)、そのまま火にかけて使っていい。ただ、悩ましいのは大・中・小をどう使い分けるかだろう。

「大は小を兼ねる」というように、「大」があればたいていの焚火料理にフィットする。一人前のステーキやハンバーグと、付け合わせの野菜をワンプレートで調理できるサイズ感だ。一枚を数人で使うのにも適しており、肉なら23人分は焼けるし、ベーコンエッグなら34人分はいける。

ただし、目玉焼き系なら「小」サイズがジャスト一人前だ。玉子12個を使った目玉焼きやハムエッグ、太めのフランクフルトソーセージを23本焼くのにもちょうどいい。この「小」を数枚持っていって、別々の料理を作って並べるのもフライパンディッシュらしい楽しい使い方だ。

また、フライパンディッシュ「小」のちょっと意外な使い方として、これをレジカウンターに置いて、会計用のトレイとして使っている店もある。手仕事の味わいが詰まった黒いアイアンの小皿は、モダンに洗練された店内のしつらえに驚くほどよく馴染むものだ。

ちなみに、この黒光りした特徴的な色合いは、最終仕上げの工程で、オイルを塗って焼き込むことによって生まれる酸化防止皮膜のもの。光の加減によって虹色にもなる黒い鉄の皿は、赤い焚火の炎になんともよく似合う。まさに焚火にこだわるTAKIBISM製品の真骨頂である。

新たに「大」が加わったフライパンディッシュ。左から「小」(目玉焼き)、「中」(ラムステーキ)、「大」(ピザ)。

 

フライパンディッシュでピザを焼く

TAKIBISMのプロデューサーであり、UPIアドバイザーの寒川一さんは、さすがに生みの親だけあって、このフライパンディッシュの使い方に長けている。同じくUPIアドバイザーで北欧ソト料理家の寒川せつこさんとともに、次々と焚火料理を作る様子はなかなかのものだ。

そのなかで、手軽で簡単、ちょっと試してみたくなるのが、焚火で焼くピザ。ピザ生地から手作りするのはたいへんだが、コンビニやスーパーで売っている冷凍食品のピザでも美味しくいただける。そして、フライパンディッシュの「中」と「大」は、実は冷凍ピザのサイズに合わせて設計したのではないかと思えるくらいジャストフィットするサイズ感である。

寒川さんは、当然、TAKIBISMの「リアルファイヤースタンドジカビ」を使って焚火を熾すのだが、まずは五徳のトライアングルに乗せて下からの火でピザを焼いた後に、焚火台の下側に滑り込ませ、今度は上からの輻射熱で表面を焼く。地面近くにパンがある焚火台「ジカビ」ならではの焼き方だ。

JIKABI Lの下に滑り込むようにおかれたピザ。輻射熱で表面が焼かれる。

上からの熱を使えないキャンプでは、表のピザ生地とたっぷり盛ったチーズをカリッと焼き上げるのは難しいが、焚火台「ジカビ」とフライパンディッシュを使えば簡単なのだ。

ちなみに「ジカビ」がない場合は、ピザを乗せたフライパンディッシュを焚火台に斜めに差し込み、直火で表面を焼く、という3Dな使い方を寒川さんは提唱している。その際、ピザが滑り出さないギリギリの角度で差し込み、ピザ全体にまんべんなく火が当たるようときどき皿を回してあげるのがポイントだ。

ちなみに、こうしたフライパンディッシュの立体的な使い方を応用すれば、たとえば、分厚い肉塊を直火の遠火でじっくりグリルしたいとき、などにもお勧めだ。

 

フライパンディッシュの使用上の注意とメンテナンス

フライパンディッシュはあらかじめシーズニングが施されているが、使用を繰り返すなかで、完全にサビを防ぐことはできないので、それなりのメンテナンスは必要となる。とはいっても、簡単でベーシックなことばかりなのでご安心を。

まずは、基本的に食器用の中性洗剤は使わないこと。中性洗剤で洗うことで、せっかくシーズニングされた酸化防止皮膜がすべて洗い落とされてしまうからだ。これはダッチオーブンや中華鍋は決して洗剤で洗わないのと同じ理屈だ。

使用後はまだ熱いうちに流水で流してタワシがけするのが理想だが、キャンプではそうはいかないだろうから、熱い湯で汚れを流して、ペーパーでしっかり水気を拭き取る。そして自宅に帰ったら、よく乾燥させたうえで、うっすらと食用油を塗っておけば完璧だ。

洗うときには金ダワシや研磨剤はNG。これまた表面の皮膜を傷つけてしまうからだ。同じ理由で、フライパンディッシュの上でのナイフの使用も避けたいところだ。焼き上がったステーキはいったんカッティングボードに移して切り分けた後、火にかけて熱々にしておいたフライパンディッシュに再び戻すという使い方がいい。

さらに定期的にシーズニングを行うことで、サビの発生を予防しつつ、経年変化する色合いも楽しめるようになる。

 

各種出そろったジョイントアタッチメントをどう使うか

フライパンディッシュは、やっとこ鍋に通じると書いたが、取手の代わりに鍋(皿)をつかむ道具が必要な点も同じだ。やっとこ鍋の場合は、ペンチに似た「やっとこ」で鍋の縁をつかんで使う。フライパンディッシュの場合は、同じTAKIBISMから出ている各種専用ジョイントアタッチメントか、「ディッシュハンドル」という専用の道具を使う。

【ディッシュジョイント/ディッシュジョイントショート】

まずは火吹き棒「ブレストゥファイヤー」の先端を「ディッシュジョイント」に付け替えて使うもの。これは火吹き棒ながら二分割できるというユニークな構造を利用したもので、火吹き棒の先についた三ツ俣のツメがフライパンディッシュを捉え、焚火にかけたり、直接直火であぶったりできるようになる。

全長を短くした「ディッシュジョイントショート」は、持ち手とディッシュの距離が近くなることで、より安定した使い方が可能だ。ソロキャンプの場合のように焚火のサイズが小さい場合は、こちらのほうが使いやすいだろう。

ディッシュジョイントショートとフライパンディッシュ小。

 

【フォークジョイント/フォークジョイントショート】

これは文字通り、火吹き棒「ブレストゥファイヤー」の先端に取り付けるフォークで、ソーセージやマシュマロなどを焚火で直接あぶるときや、フォンデュ系の料理に便利なアタッチメントだ。

 

【フロントノズルショート】

火吹き棒「ブレストゥファイヤー」のジョイント部分と交換することで、本来の長さの約半分の火吹き棒になる。携帯性に優れ、片手でフライパンディッシュを持ちながら使うときにも最適な長さ感である。また、solostoveのトライポッド等の三脚と組み合わせると、「リアルファイヤースタンドジカビ S」にジャストフィットするケトルフックとしても使用できる。

 

【焚火ツールバッグ】

「フライパンディッシュ」や火吹き棒「ブレストゥファイヤー」や各種ジョイントアタッチメント、そして「リアルファイヤースタンドジカビ」といったTAKIBISMの各アイテムは、この帆布製ツールバッグに収めることで完結する。これぞまさしく焚火主義。

各種ジョイント、分解したトライポット、モーラナイフ、2本のブレストゥファイヤー、フライパンディッシュ23枚、焚火グローブを収めたうえで、リアルファイヤースタンドジカビまで収納でき、おまけにスナップを外してサイドパネルを内側に折りたためば、ログキャリーにもなるという優れモノだ。

さて、ここまで読んで、たとえば「ブレストゥファイヤーの先端を各種ジョイントに交換して使うと、火吹き棒として使えなくなるのでは?」といった疑問を抱いた方もいるだろう。正解である。「そんなの、ブレストゥファイヤーを2本買えばいいだけの話だ」と考える方のほうが少数派だということも理解している。

だが、TAKIBISMとは、あくまでも焚火をこよなく愛する数奇者が作った、数奇者のためのアイテム群であり、「こんな道具があったら素敵な焚火になるよね」という邪心なき心が開発者たちのモチベーションの源なのだ。したがって、火吹き棒でヤカンをつり下げてどうする、といったツッコミは無粋というもの。

こだわりの鉄器で、焚火を愛でる。そんなロマンを直感的に感じた方は、少し気をつけたほうがいいかもしれない。なぜなら、あなたはすでに「焚火主義」に取り込まれているに違いないのだから。

TEXT: CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHY: YUKO OKOSO

寒川 一(さんがわ・はじめ)
寒川 一(さんがわ・はじめ)

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。TAKIBISM ディレクター。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

寒川せつこ(さんがわ・せつこ)
寒川せつこ(さんがわ・せつこ)

北欧ソト料理家。スカンジナビアの雄大な自然と、豊かに暮らす人々との繋がりから、スカンジナビアのアウトドア、文化を主にお料理ワークショップを通して発信。レシピ提供したメディアは、「NHK 趣味どき!/たのしく防災!はじめてのキャンプ」、「メスティンレシピ」、「ソトレシピ」など多数。

寺倉 力(てらくら・ちから)
寺倉 力(てらくら・ちから)

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてスキー&スノーボードマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

大社優子 (おおこそ・ゆうこ)
大社優子 (おおこそ・ゆうこ)

写真家。横浜・アマノスタジオにて森日出夫氏に師事。独立後、様々な広告写真やドキュメンタリー、出版物を手掛ける。現在に至るまで個展、企画展などを各地で開催。“DARK ROOM PHOTO SESSION”というテーマをその都度変えたポートレイト撮影会も行っている。鎌倉在住。