Dalum「グリドル」×TAKIBIZM「JIKABI」は、相思相愛。
10月初旬、「焚火カフェ」の主であり、UPIアドバイザーでもある寒川一さんから誘われて、北海道の道東、オンネトーへ向かった。
その頃、東京はまだ気温が高く、25度を超える夏日が続いていた。Tシャツ姿で釧路空港に着いて外に出ると、すっかり秋の空気だった。フリースを着て、阿寒湖を経由してオンネトーへ車を走らせた。
オンネトーは、阿寒湖から車で20分ほどの距離だが、途中、足寄峠を越えると、秋はさらに深まっていた。オンネトーの湖畔の森が、鮮やかな朱色、黄色、黄金色に染まり、美しい。
落ち葉の上に、Dalum(ダーラム)の「WARD(ワード)」と名づけられているトナカイ・ファー(Lサイズ)を敷き、折り畳み型のアウトドア・チェアーを並べ、Mサイズのワードをクッション代わりに載せる。北欧サーミの人たちの伝統工芸品でもあるトナカイ・ファーは、使ってみればわかるが、温かく心地いい。アウトドアのフィールドで一度使えば、きっとやみつきになるだろう。
TAKIBISM(タキビズム)の「JIKABI(ジカビ)」S、M、Lサイズに合わせて製造された、ダーラムの「グリドル」S、M、L。オンネトーの野営場で、寒川さんは今、LサイズのJIKABIに火を熾し、食材や調理具の準備を整えて、グリドルのMを設置した。道の駅などで買った道産の野菜や牛肉、ローカルメイドのシードル、そして、北欧風のプレートに仕上げようとベリーやフェンネルが用意されていた。
寒川さんが、ダーラムのグリドルの特徴を話してくれた。
「これはまさにスウェーデン、ラップランドの、クラシカルなピクニック・スタイルなんです。アメリカのバーベキューは基本的に、立って、網のグリルで焼いて、ワイワイと食べるスタイル。スウェーデンでは、こんな風にトナカイ・ファーの上に腰を下ろして、このグリドルのようなフラットアイアン・パン(平らな鉄鍋)でクックして、ゆったりと寛ぎながら食べる。座して料理し食べる、というのが、日本人の感性にぴったり合っているように思います。落ち着くし、火のそばだから温かい」
「ダーラム創業者のひとり、トビアス・エクルンドは、ここオンネトーで開催した『モーラナイフ・アドベンチャー in Japan』の頃からのつきあいで、お互いのことをよくわかっています。トビアスは、JIKABIを大いに気に入っていて、そのS、M、Lに合わせてダーラムのグリドルを開発していった。だから、JIKABIとグリドルは相思相愛、まさに相性抜群なんです」
トビアスから寒川さんのところに試作品が届き、使ってみて寒川さんは気になるところ、改良すべきポイントをフィードバック。スウェーデンのダーラナと、日本の鎌倉と、リモートで幾度ものやりとりを経て、S、M、Lサイズのグリドルは完成した。
JIKABIとグリドルを合わせてみると、最初からひとつだったかのようにぴったりだ。
「ついに完成品が送られてきたとき、驚きました。精度がより高まってずっと使いやすくなったし、美しくなっていた。フラットな鉄板自体は新しいわけではないけれど、JIKABIと一緒に使うことで、特別になる。旅に持っていく道具として完璧な組み合わせです」
「それぞれのS、M、Lサイズに呼応していますが、ぼくのオススメは、JIKABIのMサイズに、グリドルのSサイズという組み合わせ」と寒川さん。「2〜3人の旅ならグリドルのSでも充分だし、下をMにすると、JIKABIの周縁にケトルや物を置けて便利です」
秋の森と焚き火料理。
山と森に囲まれたオンネトーは、夕暮れが早い。気温は急激に下がり始めていたが、JIKABIのそばに敷いたトナカイ・ファーの上に腰を下ろすと下半身が温かい。靴を脱いで両足を炎のそばに置けば、身体全体がぽかぽかしてくる。数人でJIKABIを囲めば、さらに温かくなる。
「槇塚くん(槙塚鉄工所の槇塚登)とJIKABIを作るとき、最初から円の形にこだわっていました」と寒川さん。「円の周りをぐるっと人が囲むと、壁ができてみんなが温かくなる。さらに、ダーラムのグリドルを上に置くと、炎と熱が上に逃げず、オーブン効果でさらに温かさが増す。タキビズムJIKABIとダーラムのグリドルのペアリングは、特に秋、冬のフィールドには最適だと思う」
「これは焚き火料理なんです。そして、焚き火料理は奥が深くて、面白い。焚き火の炎は周囲の影響を受けやすいから、扱いが難しいと見ることもできるけど、ぼくはそれを自由度が高いと考えます。(火、炎の)コントロールの幅が無限にある。その日の気温、湿度、風の有無と強弱、拾った枝や木の乾燥具合、何をクックするか。そして、何人でタキビズムを囲んで、どんな場にするか。最後にコーヒーを淹れて終わるのか、それとも食後にウィスキーやワインをやりながら炎をのんびり囲むか。そんな時間の流れ、場の全体像を想像し、思い描きながら、ぼくは焚き火を熾して料理していく。自然の影響を受けるから、自然をうまく味方につけてクックする。やっていて、毎回自分で感動するんです」
抜群の焼き加減で仕上げたステーキ肉を、寒川さんがモーラナイフのクッキングナイフで切り分けてくれた。筆者の友人で男木島に暮らすベイカー(パン職人)、ダモンテ海笑くんに、一昨日焼いて北海道まで空輸してもらったカントリーブレッド、レーズンブレッドがある。ブレッドをカットし、肉をのせ、ベリーを添えて食べる。最高にうまい。
ククサに注いでもらったコーヒーを手に、湖畔に立つ。ハワイで出逢う虹のように、秋の夕暮れのオンネトーは、奇跡のような景色を見せてくれる。
四季を通じて何度もこの場所へやって来ているが、今この瞬間に感動する。
JIKABIの熾火から漂ってくる煙の匂い、火の香り。誰かがつま弾いているウクレレの音色。寒川さんはさっき、「場全体を想像し思い描いて」と言っていたが、そう、まさにこれなのだ。この匂いや音は、カメラでは捉えられない。この瞬間(時間)は、今この場所に居て味わえる唯一のもの。「今、ここにある幸せ」、それが、焚き火なのだろう。炎のそばに居る幸福。タキビズムとダーラムで過ごした、秋のオンネトーでの一日だった。
電波の届く場所へ戻ったら(オンネトーでは電波が一切キャッチできない)、スウェーデンのトビアスにショートメールしよう。今日のJIKABIとグリドルの写真、そして、オンネトーの秋の景色を添えて。
Photography by YUKO OKOSO
Text by EIICHI IMAI