「DALUM(ダーラム)」〜スカンジナビアン・スタイルのアウトドア・クッキング〜

旅の中で生まれた、「DALUM(ダーラム)」。

「料理好きな母親の影響で、ぼくも料理をするのが大好きなんだ。家ではもちろん、キャンプとか、旅のフィールドでも、料理するのが好きだ。アウトドアだからもちろんシンプルで手軽なものになるけれど、でも、その土地のものを入れたり、何かこだわりを持って、楽しみながら作りたい。みんなで美味しく食べれば、野営が楽しくなるよね」

「ダーラム」の共同創業者のひとり、トビアス・エクルンドはそう語る。

共同創業者 トビアス・エクルンド

「仲間や家族と、野営しながら、ときに何十kmもトレイルを歩く。ぼくらスウェーデン人は、夏はもちろん、冬でも、そうやってフィールドを歩いて移動するのが大好きなんだ。スカンジナビア半島には、各地にロング・トレイルがある。真冬の雪原なら、クロスカントリースキーやスノウシューを足につけて歩く。開けた台地、森の中、湖畔や海辺など、眺めの良い場所を選んでテントを立てる。スウェーデン人にとって、居心地の良さはとても大切で、それはアウトドアでも変わらない。テントを立てる場所、焚き火を熾す場所には、みんなそれぞれこだわりがある」

「スウェーデンには『自然享受権』というものがあって、国立公園の中でも、誰か個人の敷地であっても、そこが自然と呼べる場所であれば、誰でも自由にテントを張って一晩野営することができる。自然の中の、最高に眺めのいい地点や、心地良い場所を選んで野営地を設営することは、ぼくらスウェーデン人にとって、アウトドアで最も大切にすることのひとつと言えるだろう」

 自然享受権というのは、スウェーデン王国が法律で定めた「市民の権利」だ。極端な言い方をすれば、誰かの家の裏庭あるいは街の公園であったとしても、もしそこが草地や雑木林のような場所、自然の広がる土地ならば、誰でもそこにテントを立てて一晩泊まることが許されるという考え方(これは、スウェーデンを旅する外国人にも適用される)。それをスウェーデン人は、「誰でも自然の中に泊まれる自由がある」と表現する。

「自由がある」とは、なんと素敵で、カッコイイ言い方だろう! ちなみにスウェーデンには「義務教育」という表現はない。そのかわり人々はこう言う、「子供たちには教育を受ける自由と権利がある」。それは義務ではない、その自由を選ぶ権利が、子供たちひとり一人にあるのだ。

「自分が気に入った場所にテントを立てたら、仲間や家族とゆったり楽しく過ごすために、夕食を作るわけだけれど……ぼくはずっと、自分にとってパーフェクトなグリドルを探し求めていた。円形で、ほぼフラットな、いわゆるグリル・パンだ。ぼくがキャンプのときに欲しかったのはバーベキュー用のグリル網ではなくて、フラットなパンだ。そしてそれは、軽くて持ち運びしやすいものがいい。あるとき、フィールドで友人とそんなことを話しているうち、じゃあそれを自分たちで作ろう、ということになった。それが、ダーラムというブランドの始まりなんだ」

故郷ダーラナに思いを馳せて。

 ともにダーラナ出身のトビアスと、友人であるダニエル・ルンディンのふたりが小さな会社を起業し、ブランドを起ち上げた。「ダーラム」というブランド名は偶然のように名づけられたが、故郷を愛するふたりにとって必然とも言えるネーミングでもあった。

「ブランド名のダーラム(Dalum)というのは、ダーラナ地方のことなんだ。ダーラナ北部に、エルフダーレン(Älvdalen)という村があって、その界隈ではスウェーデン語とは異なる言語が遣われてきた。サーミ語のように、それも少数言語で、エルフダーレン語という。この地域に住むわずか2500人ほどの人々だけが、今もその言語を喋っている。もちろん彼らはスウェーデン人だしスウェーデン語を母国語としているけれど、その村の学校では今もエルフダーレン語の授業があるし、家やコミュニティでその少数言語は積極的に遣われているという。地域の人々はその古語と、文化や伝統をとても大切にしているんだ。ダニエルは、そのエルフダーレンの村のすぐそばで生まれ育った」

長年の友人で、ともにアウトドアを愛する旅仲間であり、「ダーラム」共同創業者のふたり。トビアス・エクルンド(左)と、エルフダーレン村のすぐ近くで生まれ育ったダニエル・ルンディン。そして、いつも一緒に旅をする、レッドセッター犬のイプセン。

 トビアスとダニエルは、「ダーラム」を、「アウトドア・クッキングをテーマにしたブランドにしよう」と考えた。料理が好きで、旅が好きで、キャンプのときにも美味しい料理を作って楽しく食べることが大好きなふたり。というわけでふたりのブランドは、「スカンジナビアン・スタイルのアウトドア・クッキングをテーマにしたブランド」としてスタートすることになった。

「ブランドの名前についてあれこれ考えていたとき、ダニエルが生まれ育った場所の近くでは、エルフダーレン語という少数言語が今も受け継がれていて、エフルダーレン語でダーラナのことを『ダーラム』と呼ぶことを知った。ふたりともダーラナで生まれ育ち、ダーラナという地方に深い愛がある。ふたりにとってのルーツである土地の名前をブランド名にしたらどうだろうと考えた。しかも、エルフダーレン語の名前を遣ってね。『ダーラム』と口に出してみると、響きもいいし、スウェーデン人ならそれがダーラナのことだとわかるだろう。今後出していくプロダクトに、それぞれエルフダーレン語の名称を付けたら面白い。それは、サーミ語や、北海道でアイヌ語を遣うのと似ている。そこには深い意味があって、素敵だと思ったんだ。そんなに大袈裟に考えたわけじゃないけれど、結果的には、自分たちのルーツ、故郷に思いを馳せた名前になって良かったなと思っているよ」

ともに旅をする道具として。

 トビアスとダニエルのふたりが起ち上げた、スカンジナビアン・スタイルのアウトドア・クッキングに特化したブランド、「ダーラム」。その最初のプロダクトは、トビアスがずっと「欲しかった」ものだ。「ともに旅をする料理の道具」である。

「ヤルダ キャリーキット」は、スウェーデン製の高品質スチールで作られた軽量の「グリドル」と、それを梱包する丈夫で洒落たデザインの「キャリーバッグ」、「キャリーストラップ」、さらに、ウールパワー製の「シットパッド」からなるワンセット。火を熾して調理に使うグリドルは円形のフラット・パンで、専用のキャリーバッグに入れてデイバッグのように背負うことができる(手で持つことも可能。軽くて持ち運びが容易)。

「これは、一緒に旅をする道具であり、アウトドア・クッキングを楽しく快適に、本格的にする優れた調理器具でもあるんだ」とトビアスは胸を張る。

「キットのバッグに入れてどこへでも持っていって欲しい。軽くて持ち運びが容易なんだ。フラットな円形グリドルは、あらゆる料理に対応する。いわゆるバーベキュー用グリル網だと、網の隙間から小さな野菜は落ちてしまうし直接炒めることはできない。このグリドルなら、細かく刻んだ野菜や肉を炒めたり、バターやオリーブオイルで魚をソテーすることもできる。スウェーデン風のパンケーキを焼いたり、朝食に目玉焼きもできる。焼きそば、お好み焼きも作れるよ。You can do so many things! これはまさにユニバーサルなツールなんだ」

 スウェーデンの原風景が広がる美しい地方、「スウェーデン人の心の故郷」と言われるダーラナで生まれたブランド、「ダーラム」。スカンジナビアン・スタイルのアウトドア・クッキングを提唱するそのブランドの「ヤルダ キャリーキット」を持って、新しい旅に出よう。

Interview & Text by EIICHI IMAI
Photography from Dalum

Tobias Eklund(トビアス・エクルンド)
Tobias Eklund(トビアス・エクルンド)

ダーラム(Dalum Sweden AB )の共同創業者・CEO。ダーラナ地方で生まれ育ち、アウトドア用品メーカーでセールス/マーケティングディレクターとして長年の経験を積む。2020年にダーラムを創業。

今井栄一(いまい・えいいち)
今井栄一(いまい・えいいち)

フリーランス・ライター&エディター。旅や人をテーマに国内外を旅し、執筆、撮影、編集、企画立案、番組制作・構成など。著書に『雨と虹と、旅々ハワイ』『Hawaii Travelhints 100』『世界の美しい書店』ほか。訳書に『ビート・ジェネレーション〜ジャック・ケルアックと歩くニューヨーク』『アレン・ギンズバーグと歩くサンフランシスコ』など。