国東半島の古道でみつけたおいしいもの〜Old Japanese Highway by PAPERSKY〜

PAPERSKY』本誌では何度か取り上げている国東半島だが、「国東って、どこ?」と思われる方も少なくないだろう。まずは国東半島の概要から。

“九州屈指の秘境”ともいわれる国東半島は、大分県北東部に位置する、お椀型をした半島だ。両子山の火山活動によってできた6つの尾根が放射状に伸びており、その深い谷ごとに集落(郷)と、固有の習慣や文化が育まれた。火山活動と長年の侵食は奇岩や険しい峰を作り出し、いつしかそこに山岳信仰が生まれた。奈良時代になると、アミニズム的な山岳信仰と宇佐神宮を中心とする八幡信仰が合わさった、神仏習合の「六郷満山」という独自の信仰が花開く。718年ごろ、宇佐八幡神の化身とされる仁聞菩薩が半島の各地に28の寺院を開いたのが始まりとされる「六郷満山」は、明治時代の廃仏毀釈も生き延び、現在は修正鬼会やケベス祭りという奇祭でも知られている。

さて、「六郷満山」では厳しい修行の場を求め、宇佐宮弥勒寺(宇佐神宮の境内にある)から国東半島の山々にかけて多くの寺や岩屋が開かれた。これらの修行の場を結ぶルートは「峯道」と呼ばれ、半島一帯に広がっている。『PAPERSKYNo.67で取り上げた「国東半島峯道ロングトレイル」は、「峯道」の歴史や信仰を感じながら国東半島を歩けるよう、修験の道や昔ながらの生活道を整備したハイキングルートだ。

「K-2」ルート上にある三十仏の仁王像。日本全国の石造りの仁王像の約7割がここ、国東半島に置かれている。

 

今回の「Old Japanese Highway」では、世界農業遺産にも認定された「クヌギ林とため池がつなぐ農林水産循環」の伝統的な農業や周辺の森づくりにも注目しながら、150kmに及ぶ「国東半島峯道ロングトレイル」の一部を旅した。そもそも国東半島は、両子山系の尾根と深い谷から成る地形ゆえに平野部は狭く、短く急勾配な川がいくつも流れていて、降水量が少ない上に火山性の土壌は雨水が浸透しやすく、水田用の水を確保できないという厳しい自然環境にあった。トレイルを歩いているといくつものため池を目にするが、これは農業用水の供給と治水目的に人々が作り上げた人工池である。こういうため池をいくつもつなげ、管理することで水田に水を供給していた。そんな環境で盛んに行われるようになったのが、クヌギを利用した原木しいたけ栽培。「木が食料を生む」というシステムそのものも画期的だが、原木しいたけ栽培によってクヌギ林の新陳代謝を促し、伐採と再生を繰り返すクヌギ林がため池の水資源をかん養するという、循環する仕組みが持続的に維持されており、この持続可能な農林水産業システムが、美しい里山の景観とあいまって高く評価され、「後世に継承すべき伝統的な農業システム」として世界農業遺産に認定された、というわけ。

 

国東半島で特徴的なため池の一つ、「K-2」ルートにある山口池。

 

「国東半島峯道ロングトレイル」は、ユニークな六郷満山や「国東半島芸術際」のためにトレイルのあちこちに置かれた屋外アート作品などに注目が集まりがちだけれど、こんなふうに郷土の食の歴史や食文化を支える生産者に注目して旅をしてみても、また違った視点が得られておもしろい。せっかくなので、国東半島で出合ったおいしいものをいくつか紹介しておこう。まずはしいたけ。そもそも大分県は、干ししいたけの生産量が国内の約40 %を占めるという、しいたけの一大生産地。なかでも国東産の原木しいたけは、旨味も香りも食感のよさも抜群だ。

 

「まるか三代目」がしいたけを栽培しているホダ場。

 

伝統的な原木しいたけ栽培は、直射日光の当たらない雑木林の中のホダ場に植菌したホダ木を並べ、2年かけてしいたけを発生させるというものだが、しいたけ農家の仕事は原木の調達から始まる。秋になり、木々が紅葉し始める頃、原木の伐採を行う。クヌギの根元付近から切り倒し、葉がついた状態でしばらく放置する。乾燥が不十分だとしいたけ菌糸が育たないので、徐々に水分が抜けて植菌に適した状態になるまで待つ。電気ドリルで穴を開け、そこに種菌を植え付ける(「駒打ち」という)。原木を井形に組んで覆いをし、約2年間寝かせてようやくホダ木が完成する。完成したホダ木(原木)を山からホダ場に移すと、23ヶ月後にようやくしいたけが発生し始める。

 

さらに、しいたけを育むクヌギ林の維持もしいたけ農家の仕事だ。環境に負担をかけないサイクルでしいたけ栽培を行いながら、伐採による森の若返りも図っているのだ。国東の“循環”の担い手ともいえるしいたけ農家だが、山間部の栽培は収穫量やできが天候に大きく左右されるうえ、大変な重労働ということもあり、生産者の高齢化が進んでいるそうだ。

 

道の駅でみつけた「しいたけ饅頭」は、生産者が自家栽培した原木干ししいたけと刻んだ玉ネギ、ゴボウ、ニンジンなどの野菜を甘辛く味付け、ふっくらとした皮で包んだもの。しいたけの香りがすごい!

 

こちらは国見ふるさと展示館内の食事処「城山亭」で販売している黒米大福。国見市の地域支え合い活動の一環で栽培した、無肥料、無農薬、天日干しの黒米を大福に仕立てたもの。素朴な味わいで、ハイキング中のおやつにもぴったり。

 

ルート「T-4」中山仙境でおやつタイム。黒米大福にかぶりつく編集長のルーカスと、今回の旅のゲスト、ジェームズ。

 

今回の旅では地元の農泊にお世話になった。畑を案内してくれたのは、自然栽培農家で「まるか三代目」を営む上平雅義さん・扶砂子さん。グラフィックデザイナー&世界的なスポーツアパレルのデベロッパーとして活躍していた2人が、国東の山間部の谷間に移住したのは10年前のこと。移住前はオール電化の一戸建てで都会的な暮らしをしていたそうだが、家庭菜園の土からセシウムが検出されたことをきっかけに、関東を離れることを決意。この場所に決めたのは、五右衛門風呂のある築120年の民家を気に入ってのことだそう。現在は20反の畑でおよそ60種の野菜を、無農薬・ほぼ無肥料で育てている。タネにもこだわり、できるだけ自家採種しているそうだ。収穫した作物は「季節の野菜セット」として県外へ発送している。

ツヤツヤでおいしそう!上平さんが手塩にかけた野菜たち。

 

「まるか三代目」の夕食。とれたての季節の野菜をいただいた。

 

「まるか三代目」の離れを利用した農泊は食事が醍醐味だ。トマト、オクラ、ナス……取材時の季節の野菜が満載の6品は、素材を生かしてシンプルに調理してある。いずれも、調味料なんて必要ないくらい、野菜本来のうまみや甘味が際立っているのだ。特に自家製味噌仕立ての味噌汁は、ふくよかなのにコクもある深みのある味わい。聞けば、味噌はタネとりから行う自家栽培の青大豆、老舗の糀屋の米糀、塩のみで仕込み、土蔵で8ヶ月以上熟成させたものとか。「まるか3代目」の農泊では、最旬のおいしいものを味わうだけでなく季節の農作業体験もできるというから、ぜひ利用してみてほしい。

 

「国東半島峯道ロングトレイル」のハイキングには、地元で手配するお弁当が便利。こちらは「まめのもんや」の日替わり弁当。

 

古道歩きのお楽しみはとっておきの風景とコーヒーブレイク。SOLO STOVEとLEMMEL KAFFEのコーヒーケトルを持参して。

 

「国東半島峯道ロングトレイル」の周りには、あいにく飲食店がないことから、今回は地元のカフェや飲食店に頼み、地元の野菜・素材をふんだんにつかったお弁当をつくってもらった。イタリアンがベースの「まるめキッチン」のお弁当は、パスタがつくなど洋風の仕立て(2日前までに要予約、エリアにより配達も可能)。杵築にある「まめのもんや」のお弁当は、玄米おにぎりがなんとも美味。そんなお弁当の時間にありがたいアイテムが、SOLO STOVEだ。小枝を薪にして簡単にお湯を沸かせるSOLO STOVEがあれば、どこでも食後のコーヒーを楽しめる。LEMMEL KAFFEのコーヒーケトルも持参し、急斜面に設けられた密乗院の棚田の前でコーヒーブレイクを楽しんだ。今回、初めて携行したアイテムだけれど、小型で持ち運びしやすく、ガスを使わずに効率よく燃焼するストーブは、ルート上に飲食店やカフェがないことが多いロングトレイルハイキングに欠かせないギアになりそうだと痛感。

ギアのアップデートを重ねながら、『PAPERSKY』チームのロングトレイル旅はまだまだ続きます!

フルストーリー【Old Japanese Highway 『大分・国東半島』】はこちらから。(PAPERSKYウェブサイトへ)

TEXT: RYOKO KURAISHI

ルーカス B.B.(るーかす・びーびー)
ルーカス B.B.(るーかす・びーびー)

1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。12才で雑誌制作を始めてから現在まで、読者の視野を広げ、インスピレーションを与える、オーガニックなメディアを制作し続けている。1993年、カリフォルニア大学を卒業し、卒業式の翌日にバックパックひとつで来日。『TIME』『WIRED』『JAPAN TIMES』にて、カルチャーやライフスタイルを専門とするフリーランスのライターとして活動し、1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』を創刊。90年代に日本のユースカルチャーを世界に向けて発信し、伝説の雑誌となった。その後、2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。“エスノ・トラベル”という新たな視点で、時間、自然、文化をシームレスに融合させ、未来とつなぐフレッシュなメディアを創造している。東海道490kmのスルーハイクををきっかけに古道の魅力に目覚め、全国の古道の探索をライフワークとして取り組んでいる。昨年から静岡県焼津と東京の自宅兼オフィスの2拠点ライフをスタートした。

倉石綾子(くらいし・りょうこ)
倉石綾子(くらいし・りょうこ)

フリーライター&エディター。旅、お酒、アウトドア・アクティビティと自然派志向のライフスタイルを主軸にした記事を『PAPERSKY』ほか、雑誌、ウェブメディア、オウンドメディアなどで執筆する。東京と長野県宮田村の2拠点生活で縦走登山、マウンテンバイク、バックカントリースノーボード、ロングトレイルハイキングを中心としたアウトドアアクティビティを満喫中。著書に『東京の夜は世界でいちばん美しい』(uuuUPS)。