すべての人に、清潔な水を  〜高機能浄水器ブランド「ソーヤー」の歴史と挑戦 その②〜

前半より続き…

安全な飲料水を求めている人たちが世界中に存在するという事実

驚くほど軽く、手のひらサイズの浄水機「スクィーズフィルター」がアウトドア市場で大成功したことをきっかけに、米国南西部に位置するフロリダ州セイフティ・ハーバーに本拠地を置くソーヤー社の活動舞台は、世界の貧困地域などへ広がっていく。

1990年代、アフリカにおけるマラリア症の感染防止についての取り組みをきっかけに、彼らのもつ中空繊維技術を応用して安全な飲料水を手に入れることが難しい地域への支援をはじめたのである。

 「最初は、アフリカ・ケニアで蚊を媒介して感染するマラリア症を防ぐためには蚊帳が有効だという調査を受けて、僕たちが作っていたテントやアウトドアウェアに防虫効果を持たせるスプレーが使えるんじゃないかということになったんだ。その経験をもとに、社内で浄水器を手がけるという決定をしたときに、自分たちになにができるだろうと考えはじめたんだ」

しかしながらソーヤー創業者、カート・エイヴリーの息子であり、現在は同社でマーケティング・バイスプレジデントを務めるトラビス・エイヴリーは、安全な飲料水を手に入れることが難しい地域に浄水施設を設けるためには、「当時は、数千万ドルの資金が必要だった。それにメンテナンスにも多大な時間と費用が投入されていた」と思い起こす。

しかも、施設が故障したときは、住民たちは不衛生な水を飲まざるを得なくなる。その解決策として、彼らはソーヤーが手がけようと開発をはじめた簡素な浄水システムを普及させることを思い立つ。

生活環境改善の根底にある「安全な水の確保」

 そうした取り組みのなかに、今日まで続けられているフィージー共和国でのプロジェクトがある。南太平洋に浮かぶ風光明媚なリゾート地として人気だが、都市部以外の地域では安全な飲料水へのアクセスが限られていることはあまり知られていない。

「清潔で、安全性の高い水を得られるだけで、こうした地域に住む人たちの生活が大きく改善されるんだ。この活動を通じて、僕たちは社会的にも、経済的にも大きな影響を与えることができることを理解したね。例えば、子供たちが病気になる確率を押し下げられると、成長に必要な栄養素をしっかり摂取することができるようになることが分かった。それまでのペットボトルに入った水を手に入れるための消費も抑えられ、高い確率で子供たちが学校に進学することができるようになるんだ。両親も、病気になった子供のために仕事を休むことがなくなるため収入も増える。きれいな水を簡単に得られるだけで、そうしたことがすべて実現できるんだよ」

 こうした活動は現在、フィージーのほか、ケニアやリベリア、パプアニューギニアなど6カ国で取り組んでおり、人々の生活改善に役立てられている。さらに2020年には、これを発展させた「タップウォーター・フィルターシステム」を米国などで発表した。水道の蛇口に接続することでスクィーズフィルター同様の浄水効果を提供する製品である。

日常的に水道水を濾過するために、日本国内でも家庭の蛇口に取り付けたり、ポット型の浄水器が普及している。こうした製品は塩素や水アカなどを取り除いて美味しい水を提供すること目的にしているのだが、タップウォーター・フィルターシステムやスクィーズフィルターは、バクテリアや水性微生物などを除去ことを目的としているとあって根本的な設計思想が異なる。

「これはソーヤー製品が、アウトドアの世界から飛び出して世界的に普及するポテンシャルを持った製品だと考えているよ。安全な飲料水を得ることが難しい、より広い地域で使うことが可能なんだ。例えばエジプトでは上水道が整備されているけれども、その水が確実に安全だとは保障されてない。これは、そうした地域に最適な製品だ。水道口にタップウォーター・フィルターシステムを取り付けて、蛇口をひねるだけでいいんだからね。スクィーズフィルターと同様にとてもシンプルで、1日におよそ1,900リットルもの水道水を浄水することができる。メンテナンスも非常に簡単だ」

米国内では、このタップウォーター・フィルターシステムが年々増え続ける自然災害時に役立てようと、救助活動を行う組織と連携して被災地域で安全な飲料水を提供するのに役立てられている。水道の蛇口からだけでなく、ボトルに注いだ水も浄水できることから医療用としての用途も期待される。また、僕たちが海外旅行に出掛けるときも、水道水をそのまま飲むことが不安な地域に荷物に加えることもできるなど幅広い用途での使用が期待できる製品に仕上がっているのだ。

「災害大国 日本」での、ソーヤーの広がり

近年は、ここ日本国内でも、地球温暖化の影響から前例のない大型台風や大洪水に見舞われる危険性が増しており、ソーヤー社製浄水器を万が一の災害に備えているという人も増えつつある。こうした状況を踏まえて、日本のソーヤー製品の正規輸入代理店であるUPIでは“アウトドアから身につける防災”というテーマを掲げたワークショップ「スタディトレッキング®」を開催している。イベントでは、UPIアドバイザーである寒川一氏の焚き木を使った火熾し体験を通じて、お湯を作ったり、体を温めたりする方法を学んだり、スクィーズフィルターで安全な水を作る方法などをレクチャーしている。

歩いて、学んで、備える。
スタディトレッキングのススメ「アウトドアから身につける防災」
https://upioutdoor.com/story/studytrekking01/

同様に、スクィーズフィルターをはじめとしたライフライン確保に役立つアウトドアギアをデイパック納めた「UPIライフラインサポートパック」の販売を行うなど、避難時の備えとしての製品提案など積極的な啓蒙活動も行っている。

ライフラインを支える製品、だからこその品質管理

1984年の創業以来、ソーヤーはファミリービジネスを続けながら怪我や害虫、紫外線、飲料水から受ける問題を解決するための製品を中心に手がけてきた。スクィーズフィルターをはじめとした浄水器の製造にあたっては、徹底的な検査態勢を維持しており、すべての浄水器は1点1点が3回の浄水テストが出荷前に行われ、完璧に機能することが確認されたのちに世界各国へと送られている。彼らが本社を構える米国のほか、欧州や日本をはじめとしたアジア圏のアウトドア・リクリエーションが盛んな地域での使用のほか、人々のライフラインを支える製品を手がけるからこそ徹底した品質管理を行っているのである。

TEXT:TARO MURAISHI

Travis Avery (トラビス・エイヴリー)
Travis Avery (トラビス・エイヴリー)

ソーヤー社のマーケティング・バイスプレジデント。創業者のカート・エイヴリーの息子であり、ソーヤーのスポークスマンとして、PRやコミュニティ・コミュニケーションを行なっている。

寒川 一(さんがわ・はじめ)
寒川 一(さんがわ・はじめ)

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。TAKIBISM ディレクター。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

村石太郎(むらいし・たろう)
村石太郎(むらいし・たろう)

アウトドアライター。北米大陸最北の山脈ブルックスレンジに魅せられ、過去20年以上にわたって北アラスカの原野を彷徨う。日本国内はもとより、世界各地のフィールドやアウトドアメーカーへと精力的取材を続け、登山アウトドア各誌を賑わせている。

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