歩いて、学んで、備える。スタディトレッキングのススメ  〜アウトドアから身につける防災〜

UPI 鎌倉の店長、辻 和真です。


私は、もともとアウトドアが大好きで、学生の頃からよくキャンプや登山をしてきました。現在も休日にはよく外遊びに行っていて、特に焚火とコーヒーが大好きなのですが、休日のちょっとした時間を使って焚火をしに行ったり、朝活として鎌倉の海岸でコーヒーを淹れて、目の前に広がる景色をのんびり楽しんだりしています。


今回私は、UPIワークショップの「スタディトレッキング」に関して記事を書かせていただきました。UPIに入社して以来、私もサポートスタッフとしてこのワークショップに携わっていますが、これまでアウトドアをしてきた私にとっても、新たな経験、そして大きな学びの機会となっています。

この記事を読んでいただいた一人でも多くの方々に、「スタディトレッキング」とは何か、そしてそこに込められている想いが伝えられたら嬉しく思います。

スタディトレッキングとは

UPIが開催するワークショップの一つである「スタディトレッキング®」。

このスタディトレッキングは、「スタディ(Study=学ぶ)」と「トレッキング(Trekking=自然の中を歩く)」という二つの言葉が合わさったその名のとおり、「自然の中を楽しく歩きながら、アウトドアや防災のスキル・知識を身につける」ことを目的としたツアー形式のワークショップ。

このスタディトレッキングは「アウトドアで防災に役立つ力になりたい」という代表取締役の本間、UPIアドバイザーである寒川の願いが込められており、UPI直営第一号店である鎌倉店のオープン以来開催され続けている、UPIにとっても想い入れのあるワークショップです。

キャンプや登山などアウトドア好きの方々はもちろん、昨今は何時来るかわからない災害時に備え、「もしもの時」に使えるスキルや知識を身に付けておきたいという意識を持ったお客様が増えており、そのような方々がこのスタディトレッキングを通じて積極的に学んでいます。

このスタディトレッキングのワークショップでは、参加者にあるミッションが課されます。それは、「ペットボトル1本分(約500ml)の量の水のみを使って、自身が食べるランチと飲みものを作りあげ、トレッキングで失ったエネルギーを補給する」というものです。

このミッションを聞いた時、「たったそれだけの水で本当にそんなことまでできるのか」と最初は半信半疑の参加者も、その原理を知り、方法を学び、実際に体感し、ワークショップが終わった頃には達成感と満足感を得て帰っていきます。

このミッションにおいて、重要な要素(テーマ)となるのが何よりも「水」、そして「火」です。
ライフラインが整っている日本においては、日常生活において、水道を捻ればいつでも安全な水を得ることができ、ガスやIHなどコンロのスイッチを入れればいつでも火(熱)が使え、調理をしたりお湯を沸かしたりできます。

しかし、大規模な災害時においては、高確率でこれらのライフラインは致命的なダメージを受け、広範囲の地域で長期間(時間)に亘りその機能は喪失し、この恩恵を受けることができなくなります。例えば、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」、そして2016年4月16日に発生した「熊本地震」における記録をもとにしたデータ(平均値)では、それぞれのライフライン復旧までに、電気:1週間、水道:3週間、ガス:5週間を要したという事実が知られています。

つまり、そのような致命的な状況下において、自らのチカラで「水」や「火」といったライフラインを確保できるか否かが、災害時に命を繋ぐための非常に大きな分かれ目となります。そして、その「生きるチカラ」を身につけることこそが、スタディトレッキングにおいて学べる内容であり、このワークショップをUPIが行う意義と感じています。

アウトドアを楽しむことが「防災」につながる

スタディトレッキングの特徴の一つは、決して「防災」だけにフォーカスしたワークショップではないということです。

「防災」と聞くと、「備品」や「備蓄」といったように「いざという時に備える」というイメージが先行し、何となくネガティブさを感じる部分があったり、ハードルの高さなどを感じる人がいるかもしれません。

しかし、このワークショップのように、身近な「アウトドア」を楽しみ、自らの体で体験することが、いつ来てもおかしくない「もしもの時」に役立つ「生きるチカラ」を自然と身につけることにつながります。

例えば、アウトドアを日常的に楽しんでいる人であれば、「燃料を調達する」「水を汲み浄水する」「火を熾す」「お湯を沸かす」などといったことは一度は行ったことがあると思います。そういった行動の一つひとつの原理を理解し、それらを可能にする有用な道具(ギア)を知り、使い方を学ぶ。普段からアウトドアを行っている人であれば、すでに持っている知識やスキルを改めて深化・応用することができるし、日常的にアウトドアをしない人でも、防災に役立つ新たな知恵を得ることができます。


「アウトドア」を楽しみながら、生きるために必要なライフラインを確保する「防災」を学ぶ。このようなワークショップは他ではなかなかないと思います。

身近な地域を歩くことが「防災」につながる

スタディトレッキングのもう一つの特徴は、自分たちが生活している身近な地域を歩き、そこにある自然を観察することで、「どういった特徴があるのか」ということや、いざという時に「何が重要となるのか」といったことなどを知ることができるワークショップとなっていることです。


冒頭で述べた、このワークショップで重要な要素となる「水」。鎌倉という地域では、「谷戸」という三方を山や丘陵で囲まれた地形が多く見られます。この谷戸では、山や丘陵に降り注いだ雨水がその谷間に集まり、寄り集まった水がより下流へと流れていきます。例えばこのような地形の特徴を知っていると、アウトドアを楽しむ時はもちろん、いざという時に「水」を得るために向かうべきポイントがイメージでき、命を繋ぐための一つの行動を執ることができます。そして「自分が住んでいる地域はどういった特徴があるのだろう」という意識を持つこと、これが一つの「防災」につながります。

また、「防災」と一言で言っても、災害時に想定されるリスクや、そのリスクを防いだり回避するために必要な対策や行動は、その地域地域によって千差万別です。

例えば、UPI鎌倉店のある鎌倉・湘南。この地域は相模湾沿岸部に位置し、名前を聞いた時にふと思い浮かぶイメージ通り、どの街にも海が近くにあります。そこで想定される災害リスクは、東日本大震災でも大きな被害を出した「津波」。鎌倉も過去の歴史において、大規模な津波被害を受けたという記録が4件残っています(最も新しいものは大正時代の「関東大震災」時に発生した津波)。

そして、現在の研究では、今後、相模湾を震源とする大規模な地震が起き、同湾内で津波が発生したと想定した場合、最大約15mの高さの津波が時速30kmで鎌倉の街を襲うと想定されています。

そのような状況が発生した場合に、どこまで避難をすれば安全をより確保できるのか。ハザードマップを見て確認しておくことはもちろん必要なことですが、スタディトレッキングのように、地域を実際に歩き、自らの体と感覚を使って知ることがより重要となります。そして、これも自分自身が住む地域で応用することができ、一つの「防災」につながります。

スタディトレッキングに参加したお客様の声

”地形を理解した上で水を見つける方法や、道具の原理を理解して安全な飲水を作る方法などを実際に自分の身体を使って学べ、とても勉強になりました。”

”非日常な体験を味わえたことが楽しかった。普段何気なく行っている「食べる」「飲む」ということの原理原則(何でこうするのか/何でこうなるのか)を自分の体を使いながら理解でき、とても勉強になりました。ぜひまた参加したいと思います。”

アウトドアを楽しむことを通じて、生きるチカラを身につける。

その広がりが、この国のもしもの時を支え、世の中を変えていくことを願って、スタディトレッキングはこれからも開催され続けます。

TEXT:KAZUMA TSUJI
PHOTOGRAPHY:SHOTA FUTAMI

寒川 一(さんがわ・はじめ)
寒川 一(さんがわ・はじめ)

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。TAKIBISM ディレクター。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

辻 和真(つじ・かずま)
辻 和真(つじ・かずま)

「UPI 鎌倉」店長。幼少期よりアウトドアライフに親しみながら育ち、「自然・アウトドアアクティビティを通じて、自分本来で生きる人と繋がっていきたい」という想いのもと活動している。無類の焚火とコーヒーが好きであり、朝活として鎌倉の海岸でコーヒーを淹れ、目の前に広がる景色をのんびり楽しんだりしている。