天然素材メリノウールの驚くべき機能、第2のスキン = 皮膚となるウールパワー

自然に育まれた機能性素材

ウールパワーが採用する天然素材“メリノウール”は、ポリエステルやナイロンといった合成化学繊維には真似のできない、さまざまな特徴を備えた機能性素材である。 

羊毛(ウール)は、人の身体を守るために古くから親しまれてきた素材だが、その高い機能性は羊が自分たちの体を守るために備わったものである。もっともよく知られているのは、優れた保温性であろう。クリンプと呼ばれる縮れた繊維が断熱材の役割を担い、体温で温められた空気をたくさんためこんで寒冷地でも快適に過ごすことができるようになっているのだ。

このクリンプの働きによって優れた伸縮性も備え、洋服にしたときには体の動きにあわせて自由によく伸び縮みしてくれる。さらに、夏の暑い日には気化熱による冷却効果を発揮して、体を涼しくしてくれるという保温性とは相反する機能も持ち合わせている。

さらに、人間がかいた汗を効率的に吸収して、肌をつねに清潔で乾いた状態に保ってくれるという特徴も備える。そのため登山の世界、とくに雪山ではウールの肌着は必須装備となってきた。

羊の毛を手でかき分けると、土汚れなどで黒ずんだ毛の内側に真白な羊毛を見ることができる。高いところへ、より高いところへと移動する性質のあるメリノ羊は、寒冷な環境で生活するために理想的な羊毛を蓄える。

 ウールの繊維は、表皮と内部層の2重構造になっており、表皮はウロコ状のスケールで覆われている。このスケールは水分を寄せつけない性質があり、つねにサラリとした肌触りを維持する。さらに、湿度が約90%を超えるとスケールが自然に開いて、その隙間から取り込んた汗などの水分を親水性に優れた内部層が吸収する。

内部層がため込んだ水分は、少しずつ蒸発して徐々に乾燥していく。吸汗速乾性に優れた合成化学繊維のように一気に拡散して蒸発するわけではないので、水が気体に変化するときに起こる気化熱作用によって体が冷されることもない。アウトドアで遊ぶ人によく知られる“汗冷え”の現象も起こさないというわけだ。

ウールが持つ課題を克服した”メリノウール”

しかしながら、従来のウールには問題点も多かった。肌着として着たときは、チクチクとした肌に感じる不快感がとても気になる。洗濯を繰り返すとフエルト化してしまい、着られなくなるほど縮んでしまうことも悩ましい。

ウールパワーが使うメリノウールは、こうしたウィークポイントを解消した素材である。もちろん、従来どおりウールが備える高い機能性はそのまま発揮してくれる。

メリノウールとは、数ある羊毛のなかでも、とくに繊維が細く、伸縮性に富んだ毛質を蓄える「メリノ種」という純血種の羊から刈り取られた羊毛である。この品種は17世紀のスペインで固定化されたのちに、およそ1世紀にわたって同国国王の指示により国外への持ち出しを禁止されるなどたいへん重宝された。スペイン国外へと広まったのは、貢げものとしてフランスといった近隣王国へ捧げられたことがきかっけだ。そして、19世紀頃になると欧州からの移民たちによってオーストラリアやニュージランドをはじめ、北米や南米、南アフリカといった開拓地へ持ち込まれた。

ウールパワーでは、アルゼンチンのパタゴニア地方や南米ウルグアイの高原でハーブを食みながら、健康に育ったメリノウールを採用する。動物愛護の観点から問題視されてきた、皮膚などを切り取って害虫の寄生を防ぐためのミュールシングという処置を行なわないなど、飼育環境を良好に保つように努めているのも特徴だ。

羊毛などの繊維の太さは繊度という単位で表され、多くのアウトドア用ベースレイヤーに使われるメリノウールは繊度18・5ミクロン前後ととても細い。メリノウールのなかには繊度10ミクロンという驚異的な極細ウールも存在するのだが、こうしたプレミアムグレードの羊毛はハイブランドが手がける最高級スーツに生まれ変わる。ここまで繊度が極細だとアウトドアウェアに使うには充分な耐久性を確保できないし、製品にできたとしてもあまりにも高価なものになってしまうという問題もあるのだ。

人が肌にチクチクとした違和感を感じるのは、繊度30ミクロン以上の繊維が5%以上含まれるときといわれている。人毛の太さを測ると約60ミクロン前後。ウールセーターなどに使われることが多いクロスブレッド種の羊毛は、約30ミクロン程度だといわれるから肌着に用いるには繊度が太ぎる。クロスブレッド・ウールは、より太く、長く、丈夫な羊毛種であり、セーターなどを作るのに適した素材だ。

メリノウールが備える天然の抗菌作用についても忘れてはならない。不快なニオイの原因となるのはバクテリアが繁殖するためなのだが、羊毛には雑菌が付着しにくいという性質がある。このため、幾日もあいだ着続けていたとしてもウェアが臭うことがなく、洗濯しなくても快適に着続けられるのだ。

こうした特徴は、もっとも薄手のベースレイヤー・ラインナップ「ライト・シリーズ」において、とくに重要視したい利点であろう。山小屋のなかであったり、登山からの帰りに乗った電車などで自分の汗のニオイが臭ってくることほど不快なことはないからだ。従来のウールのように洗濯後に縮んでしまうことがないので、街へ戻ってきたら洗濯機に放り込んで洗うだけだけという手軽さも嬉しい。

夏や湿気の高い季節に、メリノウールという選択肢。

多くの人は、ウールというと寒い季節に着るものだと考えているだろう。しかし、夏にこそメリノウールを着てほしい。不快さが増す酷暑の都会でも汗をしっかりと吸収して、心地よいサラリとした肌触りを味わってしまえば、きっと手放すことができなくなるはずだ。通気性にも優れ、衣服内で湿気がこもるのを防いでくれるのだ。

そう聞いても、まだ疑問に思う人はビジネスマンが愛用するサマースーツがウールで作られていることを思い出してほしい。ぜひ一度、夏のメリノウールをお試しいただきたい。これは誇張ではなく365日、年間を通じてメリノウールを毎日着続けている筆者からの魅惑体験への“お誘い”である。

Text & Photographs by Taro Muraishi


◆メリノウールの基本的な機能についてはこちらの記事をご参照ください「メリノウールとは

村石太郎(むらいし・たろう)
村石太郎(むらいし・たろう)

アウトドアライター。北米大陸最北の山脈ブルックスレンジに魅せられ、過去20年以上にわたって北アラスカの原野を彷徨う。日本国内はもとより、世界各地のフィールドやアウトドアメーカーへと精力的取材を続け、登山アウトドア各誌を賑わせている。