屋外で働く人々に育まれたメリノウール・ウェア  〜ウールパワーとの出会い〜

僕と「ウールパワー(Woolpower)」との出会いは、ちょっとした偶然が重なって起こった。いまから12年前の冬。それは、米国で開催されていたアウトドア用品の展示会でのことだった。

メリノウール・ガーメント作りを得意とするウールパワーをはじめ、スウェーデンに本社を置くアウトドアメーカー3社の人たちとひょんなことから話が盛り上がり、なんと彼らの本社に招待してくれることになったのだ。

その夏に訪れたウールパワーが本社を置くのは、エステルスンドという北欧スウェーデンの中部にある都市であった。成田空港からフィンランドを経由して辿りついた街の周囲には、豊かな森林や無数の湖沼が広大な大地に散りばめられ、1時間ほど車を走らせれば同国内にある一大スキーリゾートとして有名なオーレがあった。どこか女性的な優しさを感じる山容の峰々が地平線の彼方まで続き、そこには無限のアウトドフィールドが広がっていた。いわば、ここはアウトドアで遊ぶことが大好きな人にとってパラダイスともいえるような場所であったのだ。

ウールパワーの本拠地はスウェーデンの中部にある都市エステルスンド。国内で5番目に大きい湖、ストゥール湖畔に位置する。

それゆえエステルスンドの住民たちは、週末になると近隣の山や森林のなかでハイキングを楽しんだり、湖沼や小川をカナディアンカヌーに乗って旅するなど短い夏を謳歌する。いっぽう、一年の半分とも形容される暗く、寒い冬には、バックカントリースキーやクロスカントリースキーをはじめ、凍結した湖沼のうえを滑るアイススケートやウィンドスケートといった北国の娯楽も豊富だ。あの夏以来、僕は季節を問わずエステルスンドを訪れ、地元の友人たちとアウトドアフィールドへと出掛けた数々の思い出を残すことができた。

こうした土地柄、エステルスンド周辺では数多くのアウトドアブランドが生まれてきた。長年にわたって警察官や消防士、林業従事者、軍事関係者などおもに山や森のなかで仕事をする人たちのためウェア作りを行ってきたウールパワーもそのひとつだ。1979年に創業され、ナイロン製の女性用アンダーパンツを作るウルフロテーという会社が前身となった同社では、冬になると最低気温がマイナス30度℃にも、40度℃にも低下する北欧の厳しい自然環境のなかで働く人たちにとって、体を温かく保つための必要不可欠な装備になったのである。

屋外で働く人たちが寒さから身を守るための「スキン」として、ウールパワーは鍛えられてきた。

現在は、こうしたプロフェッショナルワーカーたちのための製品作りと平行して、冬のアウトドア・アクティビティを幅広く楽しむ人たちのための製品作りにも力を入れている。ラインナップは、1平方メートルあたりの重さから分類されており、ベースレイヤー向けとして、もっとも軽量で初夏シーズンにも使いやすい平織り生地で作られる「ライト」シリーズと、冬季向けの200グラムの2種類が用意されている。そこにミドルレイヤー向けの400グラムと600グラムという合計4シリーズを展開しており、靴下やニットキャップなど冬のアクティビティをより快適なものとしてくれるアクセサリー類も揃えられている。

季節や用途にあわせた「ライト」「200」「400」「600」の4シリーズがラインナップ。

こうしたウールパワー製品は、エステルスンドにある本社工場内で100%生産され、ひとりの縫製担当者によって最初のひと縫いから一着が縫い終わるまでのすべてが行われる。その証として、製品タグには縫製者の名前が取りつけられるのだが、これによってひとつひとつの製品が責任を持って作られたことを証明しているのだ。

「RESPONSIBLY MADE IN SWEDEN」を掲げるWoolpower。製品タグには裁縫者の名前が入り、ひとつひとつの製品が人の手によって作られていることがよくわかる。

主素材として使用するのは、天然素材こその優しい温かみと、体をドライに保ちながら汗冷えなどを防ぐ吸汗発散性を備えるメリノウールである。驚くほどの温かさの秘密は、テリー織りといって裏地側をタオルのような輪っか状に加工することで重厚な断熱層を作りだしているところにある。ここに体熱で温められた空気を蓄えながら衣服外に逃がさないように工夫した構造とすることで、厳しい寒さのなかでも温かく、快適に過ごすことができるようになっているのだ。

実際に着てフィールドへ出てみると、その保温性の高さにまず驚かされる。タートルネックのように長めにデザインされたネックカラーも素晴らしく、首元から入り込む冷気も完璧に遮断してくれている。自然素材の特徴として、不快なニオイを抑える防臭性も備わる。これは頻繁に着替えをすることができないアウトドアウェアとして、多くの人が必要とする機能であろう。僕自身、ひと月にわたって極北の地で着続けていたけれど、不快さとは無縁であった。また、通常のウール製品とは異なり、洗濯機で洗っても縮むことがないことも汚れてしまいがちなアウトドアウェアとして大きな利点だ。

重厚な断熱層を作りだす「テリー織り」を裁縫する様子。

時代を超えて愛されてきた、落ち着いたデザインも魅力的である。動きやすく、着続けていても疲れることがないうえ、冬期登山やバックカントリースキーなどの本格的なウィンターアクティビティをはじめ、縦走登山やカヌーツーリング、自転車を使ったバイクツーリングのほか、日帰りのハイキングやキャンプ、日常着としても手放せない一着となる。

12年前の夏以来、僕自身が虜になってしまったように、ウールパワー・ガーメントを一度羽織れば、誰もがきっと手放すことのできなくなるだろう。アウトドアでも、日常生活でも、心まで温たためてくれるのだから。

村石太郎(むらいし・たろう)
村石太郎(むらいし・たろう)

アウトドアライター。北米大陸最北の山脈ブルックスレンジに魅せられ、過去20年以上にわたって北アラスカの原野を彷徨う。日本国内はもとより、世界各地のフィールドやアウトドアメーカーへと精力的取材を続け、登山アウトドア各誌を賑わせている。