五感を覚醒させるフィールドコーヒー  〜レンメルコーヒーとは何か〜

「レンメルコーヒー」を知ってますか? コーヒー好きな人にとっても今はまだ、知る人ぞ知るコーヒーかと思います。 自分はプロのコーヒークリエイターとして様々なコーヒーに携わっていますが、レンメルコーヒーとの出会いは自分のコーヒーに対する価値観をひっくり返す、とても衝撃的な出会いでした。

レンメルコーヒーはラップランド(スカンジナビア半島北部のノルフェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアそれぞれの一部が統合されたサーミ人の住んでいる地域)発の、かつて山仕事をする人や猟師など屋外で仕事をする人々の間で多く飲まれた「フィールドコーヒー」を復活させたコーヒーブランドです。

みなさんはどのようなコーヒーをおいしいと感じていますか? お気に入りのカフェで飲むコーヒー、コンビニで気軽にすぐ飲めるコーヒーなどなど、きっとベテランのバリスタが淹れてくれたり、正確なマシンで淹れられていることでしょう。 こだわって自分で淹れる方はコーヒー豆のグラム数を計り、お湯の温度を気にしたり、カップを温めたり、コーヒーをおいしく楽しめるよう様々な工夫をされて淹れていることでしょう。 かく言う自分も毎朝飲むコーヒーの豆は、きっかり30g計って淹れています。このような安定したおいしいコーヒーのことを仮に「左脳的コーヒー」とします。 日本でのコーヒーはお店でも自宅でもほとんどが「左脳的コーヒー」なのではないでしょうか? 例えばいつも行く喫茶店やカフェのコーヒーの味が不安定だったら不審に思いますよね(笑)。

おいしさを安定化させようと思ったらいつも決まったグラム数や決まった温度で淹れることは当然のことです。 でも、レンメルコーヒーはこの左脳的コーヒーの真逆の魅力をもったコーヒーなのです。 言うならば「右脳的コーヒー」とでも言いましょうか…。 かといって、決していい加減なコーヒーではなく、コーヒーのプロから見ても素晴らしいコーヒーと言えます。 それは、コーヒーの原産国であるエチオピアの伝統的な習慣である「コーヒーセレモニー」という儀式や、日本の「茶道」にも通づるところがあります。 どちらもグラム数を計ったり、温度計で湯温を見たりはしないですよね。見た目にも美しい所作の中に体系的にそれらが組み込まれており、飲んでおいしくなるだけでなく、心地よい体験になるようにプログラムされているのです。

そんなレンメルコーヒーには6つのルール(哲学)があります。

1. LEAVE THE CIVILIZATION

文明を離れること。 簡単に言えば、都会を離れ、自然の近くへ行け!と。

2.MAKE A FIRE

火を起こす。電気ポットではなく、ガスバーナーでもなく、火を起こすこと。そう「焚き火」をしろ!と。

3.FILL YOUR COFFEE POT WITH WATER FROM A CREEK/RIVER/LAKE

湧き水を汲む。水道の水や、ミネラルウォーターではなく、湧き水汲んでヤカンに入れろ!と。

4. POUR IN COFFEE ENOUGH FOR A MOUSE TO WALK UPON WITHOUT GETTING WET.

その上をネズミの足が濡れずに歩けるほど大量のコーヒーを入れる。グラム数を計るなんて野暮なことはしないで目分量で豪快にコーヒーの粉を入れろ!と。

5.BOIL

沸かせ。湧き水とコーヒーの粉が入ったヤカンを焚き火にかざし湯を沸かせ!と。

6.FILL YOUR SOUL

魂を満せる。出来上がったコーヒーを飲むことで言わずもがなあなたの魂は満たされるでしょう!と。

なかなかこの6つのルールを達成するのは難しいと思うかもしれませんが、無理に全てを達成できなくても、そのスピリッツを持ち合わせていればOK!足りない要素は右脳でイメージして補いましょう。 どうですか? レンメルコーヒーを体験したくなりませんか? せっかくなので、以前わたくしが体験したレンメルコーヒーを写真とともに紹介します。

レンメルコーヒーのアンバサダーの寒川一さんが開催している「焚き火コーヒー」に参加するため、その日は午前中に仕事を切り上げ、都内から葉山の海岸へ向かいました。 平日の午後に都会を抜け出すという背徳感から、すでにワクワクは始まっているのです。 どうですか、この気持ち良い景色!そして耳障りの良い波の音に、ほおを撫でる心地よい風。自分の視覚、聴覚、触覚のアンテナがビンビンに感度を増していくのがわかります。

火起こしも、ライターや着火剤は使用せず、薪をナイフで削り鳥の羽のような状態(フェザースティック)にしたものを火口(ほくち)として、ファイヤースターターで火花を飛ばして着火します。

現地で拾った流木なども投入し焚き火が安定してきたら、あらかじめ湧き水スポットに立ち寄り入手した「湧き水」をヤカンに注ぎ、沸かします。

沸騰したヤカンを火から降ろしたら、豪快にコーヒーの粉を入れます! そして隠し味に塩をひとつまみ入れたらフタをして景色を眺めて時間を待ちます。あたりに漂うコーヒーの香りに癒されリラックスすると同時に嗅覚も研ぎ澄まされてゆきます。

そろそろコーヒーがおいしく抽出されたかな〜と思うタイミングで、ヤカンをグルグルと大車輪のごとく振り回します。こうすることで、遠心力によりコーヒーの粉がヤカンの底に集まり、注いだ時にコーヒーの粉がカップに入りにくくなるのです!!!

カップに注がれたコーヒーを口にする頃には陽も沈みかけ、夕焼けと残り火を肴に、湯気さえ愛おしく感じ、味覚を含めた五感すべてを駆使したおいしさとエモーショナルな感動が押し寄せてきて私の魂は満ち満ちに満ち溢れるのでした。

レンメルコーヒーは、非日常的なコーヒーとも言えます。 しかしそれは精神的な安らぎをもたらし、日常生活の中でどんどん鈍くなりつつある五感をエモーショナルにリフレッシュしてくれる最高のコーヒーなのです。 五感を覚醒させる「レンメルコーヒー」 ぜひあなたも体験してみませんか?

中川ビバ(なかがわ・びば)
中川ビバ(なかがわ・びば)

コーヒーをメディアと捉え、ロジカルなコーヒーからフリーダムなコーヒーまでありとあらゆるコーヒーの可能性を追求し続けるコーヒークリエイター。ほぼ日のアースボールではアプリ「でこぼこ地形でコーヒーは育つ!?」を監修。