Savotta(サヴォッタ)サウナテントの誕生物語  〜CEOが語るフィンランドのサウナ文化〜

シンプルに。そして丈夫に。

500万の人口に対して、300万ほどのサウナがあるといわれるフィンランド。サウナのメッカのようなこの国で2000年に生まれたサヴォッタのサウナテントは、当時、サウナの入り方としては全く新しいものだったと、CEOのエルモ・ヴァルケーネンは話す。

20年以上前になるけど、海外に暮らしていた僕たちのクライアントが、サウナに入れなくて困っていたんだ。フィンランド人にとってサウナは必要不可欠なもの。それは、誰もが生きるためには家が必要なようにね。どうやったら彼らの問題を解決できるだろうかと考えていたときに思いついたのがサウナテントで、僕たちはテントを作るアウトドアメーカーだから、サウナテントとサウナストーブを作って送ってあげたら、すごく喜んでくれたんだ。当時、フィンランドでもサウナテントは珍しく、誰も販売していなかった。いろんなサウナに親しんでいるフィンランド人にとってもサウナテントは新しいサウナの入り方だったけれど、その経験のユニークさは必ず受け入れられること、そしてサヴォッタの中でも大きなラインアップになると確信したんだ」 

“Finn-Savotta Oy” のCEOのエルモ・ヴァルケーネン。フィンランド文化とユーモアを大切にするナイスガイだ。

こうして、正式にサヴォッタでの製造と販売が始まったサウナテントは、バックパックなどのサヴォッタの他のラインアップと並んで、大きなシェアを占めるようになった。

自然の中で、特に森や山にいると、周りの緑によく馴染んで、サウナテントそのものが自然の一部のように見える時がある。それくらい、サヴォッタのサウナテントは違和感なく周りの環境に溶け込んでいる。 

「サヴォッタのサウナテントの色には落ち着いたグリーンを採用しているけど、それは、フィンランド人にとってサウナは、ストレスとは無縁に落ち着くための場所だから。サウナは尊く神聖な場所で、静けさを感じる体験。フィンランド語でトントゥとよばれるサウナの精霊がいるとも言い伝えられている。サウナで人は誕生し、その人生を終えるときにもサウナ。心身と魂を清める場所でもあるんだ。だから、自分たちはサウナに敬意を払わなくちゃいけない。それがフィンランドのサウナカルチャーのユニークなところだと思う」

フィンランドのサウナには欠かせないウィスキング。植物の香りが湯気と一緒にテント内に満ちる。

「そして、フィンランド人にとって何よりも大切なことは、シンプルであるということ。それは全てにおいてね。フィンランドとシンプルをかけて、”フィンシンプリシティー”、”フィンシンプリスティック”とでも言うのかな。それが自分たちにとっては全てで、サヴォッタの商品はそれに忠実なんだ。それが、数ある他のサウナテントと違うところじゃないかと思っているよ。そして、これはサヴォッタの全ての商品に言えることだけれど、サヴォッタの企業フィロソフィーとして、サスティナビリティがあるんだ。サスティナブルで丈夫な素材を使い、そしてシンプルであること。素材が脆くてすぐに使えなくなって捨ててしまうようなことは避けたいし、完全にはできなくても、できるだけそうならないように、少しでも長く使ってもらえるように最大限の努力をする責任が企業にはあると思う」

その企業フィロソフィから、フィンランドと隣のエストニアで製造されているサヴォッタの製品は、不必要なものはつけずに、謙虚に、できるだけシンプルに商品を作ることを大切にしているという。時間をかけて不必要にややこしくせず、シンプルなものを製造するということは、サヴォッタの全てのプロダクトに流れる共通のスピリットだ。

”質実剛健”という言葉がよく似合う。

「だから、フィンランド人が大切にしているそのシンプルさとサウナへの敬意のようなもの、つまりフィンランドの文化とサウナ文化がサヴォッタのサウナテントにあるとしたら、そのサウナテントはどこにでもあるべきものだとは思わないんだ。サウナテントひとつひとつにサウナの精霊が宿るように、シンプルで謙虚なサウナは、それに見合う場所で使われたらいいなと思うよ」

どこにでもサウナを。“サウナテント”がもつモビリティ 

「このパンデミックは完全に世界を変えてしまったよね。それは、サヴォタのサウナテントにも大きな影響を与えたよ。フィンランドでも家にいる時間が増えて、人びとは今までとはまた違うサウナ体験を求めた。今まで以上に、家で気軽に楽しめるような体験をね。そのひとつがサウナテントだったんだ。それで、サウナテントのモデルチェンジをしたり、新しいラインアップの販売を始めて、これまでにないサウナテントのニーズの高まりにこたえられるようにしたんだ」

社会のニーズをくみとりながら、進化を続けるサヴォッタのサウナテント。その根底に流れるスピリットには、エルモの個人的なサウナテントの経験があるという。 

「一番大きなサヴォッタのサウナテントを持って、僕と友人は家の近くの湖畔に行ったんだ。雪が1メートル50センチは積もっていて、二人で汗だくになりながら、シャベルでサウナテントをはれるスペースをその雪のなかに作って。やっとのことでサウナテントを建てて、周りにベンチを組み立ててから、真ん中には大きなサウナストーブも入れて。石を入れて火をつけたときには辺りは暗くなっていた。そのときの、やっとサウナに入れたときの喜びはすごく大きくて、それはとてもシンプルなところからくる喜びだと感じたんだ。周りは暗く空気は澄み切っていて、静かで、空の星がとても綺麗だった」

サウナに入ることだけが、サウナ体験ではないのかもしれない。湖畔にある森のサウナでは、薪を割ったり、湖で水を汲んだり、火をつけたりする、その準備の時間も、サウナ体験に繋がっている。それは瞑想のような静かな時間で、それもまたサウナの時間なのだ。

「体を動かすことは、メンタルを安定させることに直接つながっていて、その日、僕らは湿った雪を一生懸命にほって体を動かしていたから、くたくたに疲れ果てていたけれど、友人と体を動かした後に一緒に入るサウナは、心身だけじゃなくて、魂までも浄化されているような気がしたよ」 

薪を集め、雪を堀り、テントを立て、火を焚いた、その先にあった景色と時間。

どこでもサウナを楽しめることはサウナテントが持つ最大の魅力だ。それを享受することのできる背景にあるのは、北欧の国々が持つ「自由」であることの権利なのかもしれない。

「フィンランドには自然享受権があるから、どこででもベリーやキノコを採ったり、森の中を散策することができる。それは、誰にも邪魔されない、奪われないみんなが持つ権利で、そこには自由があるよね。だから、サヴォッタのサウナテントをはってサウナを楽しめる場所も、できる限り自由であればいいなと思うよ。アメリカでは、ネイティブアメリカンがスウェットロッジというサウナに入るけれど、あれはテント型で移動に適しているし、サヴォッタのサウナテントもいろいろな場所で使ってもらえたらと思っているんだ。旅をする人も、森に1日だけ入るような人も、2週間入るような人も、クライマーやハイキングをするようなサヴォッタのユーザーにも、サウナテントのニーズがあると思う」

どこにでもサウナがあればいいなと考えることはとてもフィンランド的に見えるけれど、温泉に絶景を求める日本のお湯へのこだわりは、フィンランドのサウナに通じるところがあるし、今の日本のサウナブームの根底にあるもののひとつなのだろう。

「フィンランドではスパでもサウナテントが導入されているし、キャラバンのように移動する人が使っていたりもする。でも、世界でこんなにもサウナにクレイジーなのはフィンランド人と日本人なんじゃないかと思うくらい、日本人の凝り性のところはすごいよね。サウナテントも、きっと日本独自の楽しみ方がもっとあるんじゃないかと思うよ」

フィンランド文化をそのままサウナテントに

サヴォッタのサウナテントでフィンランドを感じる――。

そのスピリットは、サヴォッタが作るビデオにも見ることができる。サヴォッタのサウナテントのガイダンスビデオに登場するふたりの男性は、とてもフィンランド的だ。

「ヒゲの長い男性がサヴォッタの品質管理のマネージャーで、もう一人は地元のブラックスミス、つまり鍛冶屋。ブラックスミスの男性は、サヴォッタのアンバサダーのような存在で、彼らはフィンランド人の寡黙なところだったり、ステレオタイプなフィンランド人をそのまま体現しているよね。これからももっといろいろなバージョンで作っていきたいと思っているよ」

サヴォッタのサウナ関連動画によく現れるこの長髭の男性は、なんとサヴォッタの品質管理マネージャー。

「フィンランドのサウナは友人や家族と楽しむもの。そして、大切な交渉をしたりビジネスシーンでも活用されているんだ。それは、公平な立場で話をすることができるから。みんな裸になったら、社会的な地位なんて関係なくなるからね。僕が一番好きなのは、サウナの中で白樺のウィスク(ヴィヒタ)でバシバシ背中をはたくことかな。そして、サウナの後に凍った湖の中に入ったり、雪のなかで寝転んだりすると、温冷を繰り返してエンドロフィンが出るよね。サヴォッタのサウナテントにはそれぞれのサウナにトントゥがいるようなものであってほしいと思う。サウナテントに入れば、サウナスピリットを取り戻すことができるような」

シンプルで落ち着いた色のサヴォッタのサウナテントはどんな場所にも馴染む。とりわけ、自然の中や人びとの暮らしの息遣いを感じるような場所に。それぞれの土地に溶け込みながらも、フィンランドのサウナ文化をそっと感じさせてくれる存在なのだ。

INTEVIEW & TEXT: MIKI TOKAIRIN

東海林 美紀(とうかいりん・みき)
東海林 美紀(とうかいりん・みき)

フォトグラファー。世界のサウナのフィールドワークを行う。ウィスキングやハマムなど、各地のサウナリチュアルを学び、その土地の植物や風土を取り入れたサウナトリートメントやワークショップを行っている。