サウナテントと旅をする 〜西表島編 〜

南の果て、水が満ちる島

 石垣島で飛行機を降りると、港に移動して船に乗り込んだ。波しぶきを浴びながら進む船の中から、台形型の大きな島が見えてきた。30を超える島々から構成される八重山諸島の中で、人間が暮らす島としては一番大きい西表島だ。400メートルを超す山々が連なる西表島では上昇気流が生まれやすく、山には常に雲がかかっている。

 雨の多い西表島は水が豊かで川が多く、島に暮らす人びとは川の水を飲み水に変えているので島にはダムがひとつもない。水を貯める必要がないのだ。水不足とは無縁のこの島では稲作が盛んで、一年に2回収穫する人もいるという。多くの人は2月に田植えをして6月に収穫を迎えるので、初夏に収穫の祭りが行われてきた。

 西表島の大原港に着いてから少し車で走ると、すぐに海岸沿いに出た。干潮の時間を迎える頃の湾内の干潟は遠くまで広がっていて、普段は水に浸かっていて見えないマングローブの根っこが顔を出していた。淡水と海水が交わる汽水域が長く、河口から8キロ、10キロもいったところまで海水の影響を受ける。だから、マングローブが自生できる面積が広く、日本に自生している7種類のマングローブ全てが西表島に自生している。平野の少ない西表島では、山間部の渓流部分から一気に汽水域に入るので、川の上流、中流、下流という分け方が難しい。

 夏至の後に花を咲かせるサガリバナがちょうど満開で、島のあちらこちらで花の甘い香りが漂っていた。ただ、花を咲かせるのは夜の間だけ。それも一晩だけで、翌朝には咲いた花は全て地面に落ちてしまう。サガリバナの薄紅色の花が、早朝の靄の中の森で川一面に広がっている光景は幻想的だ。

  今年の西表島は夏至を過ぎても雨の日が多く、梅雨があけたのかあけていないのか、はっきりとしない天気が続いていた。旧暦の5月4日はユッカの日といい、海神祭が行われる。漁師たちがハーリーと呼ばれる大きなサバニに乗って競漕し、航海の安全と豊漁を祈ってきた。その日を境に梅雨も終わるといわれ、カーチバイと呼ばれる夏至南風が吹き始める。それが終る頃にこの地にも本当の夏がくるのだ。

亜熱帯の森とサウナ 

 サウナというと、フィンランドなどの寒い地域のものというイメージが強いけれど、メキシコやタイなどの暖かい地域でもサウナに入る文化があるし、日本でも昔から西日本では蒸し風呂に入る習慣があった。サウナに入って身体を温めて汗をかくことは、寒さだけが理由ではなく、昔から人びとを惹きつける何かがあるのだ。

 南国の島のジャングルでサウナテントに入るのは、どんな体験なのだろう。西表島の自然と文化に詳しいネイチャーガイドの赤塚義之さんが、島のジャングルを案内してくれることになった。赤塚さんがサウナテントを設置する場所に選んだのは、島の東側にあるジャングル。この島の典型的な地層は砂と泥の堆積岩で、それらが交互に入り交じって地層が柔らかく、雨の浸食で削られていくので川の水は濁りやすいのだけれど、そこは火山岩が多く地層が固いので、水の濁りが少ない。川で泳ぎながらサウナに入ることを考えて、川の透明度が高い場所を選んだ。

 サウナテントを担いで、川沿いを進んだ。雨が降ったり止んだりを繰り返していたけれど、少し時間が経つと川はすぐに透明な水に戻る。川の両脇には亜熱帯のジャングルらしい植物が圧倒的な生命力を持って自生していた。西表島は山が入り組んで谷が深く、乾いた場所、湿った場所などいろいろな条件の場所があって、それぞれに適応した植物が自生している。日本の植物とユーラシア大陸、台湾、東南アジア、環太平洋側の海からやってくる植物が合わさる場所が八重山諸島で、その環境条件は種の多様性を生んだ。近くには、沖縄のやんばる(山原)や奄美大島にも亜熱帯の森が広がっているけれど、そのなかでも一番南方系の植物が多いのが西表島の森だ。奄美大島や沖縄にも自生しているヒカゲヘゴは恐竜時代や亜熱帯のジャングル感を出しているし、森の中で繁茂しているツルアダンは、日本には八重山にしか自生していない。この植物が西表島のジャングルの亜熱帯感を強く印象づけている。

 フィンランドでは、初夏に白樺の枝葉を束ねたウィスクを作るのだけれど、これは、ヴィヒタやヴァスタと呼ばれていて、フィンランドのサウナには欠かせないものだ。ジュニパーの枝を束ねたものも使われる。サウナの中で身体を叩いたり、撫でたり、フレッシュな植物の香りを楽しむウィスク用の植物を探していると、アワダンの木を見つけ、この枝葉を使うことにした。ちょうど白い花をつけていて、ミカンのような柑橘系の爽やかな香りがする。

 西表島の集落では、あまり大きな木を見かけなかった。700年くらいの歴史のある集落もあって、大木が集落の中に残っていたりもするけれど、昔、マラリアが蔓延して廃村した村もあって、一度伝統が途絶えて戦後に越して来た人たちが多く、比較的この島の文化は新しい。さまざまな島から移り住んで来た人たちはそれぞれの島の文化を持っていて、植物との関わり方もそれぞれなのだけれど、島には長命草のような沖縄らしい独自のハーブも多く、宿で頂いた食事にもよく使われていた。

 川沿いにサウナテントをはれる平らな場所を見つけた。ストーブの上に石を積んで薪を入れて火をつけると、サウナの中は少しずつ暖かくなっていく。石が熱くなるのをサウナの中でゆっくりと待ちながら、ふと顔を上げるとサウナの窓からはジャングルに生い茂る木々が見える。薪の燃える音を聞きながら温かいサウナの中から見るジャングル。川から汲んできた水を石の上にかけると、蒸気が立ち上がった。

 サウナの中の地面にはシダなどの葉を敷きつめてそのまま座り、何度かストーブの上の石に水をかけて、温かな蒸気に全身が包まれるのを感じながらアワダンで作ったウィスクを振ると、爽やかな香りがサウナの中に広がった。サウナから出ると、木漏れ日が差し込む川の水にゆっくりと体を浮かせる。水はそこまで冷たくはなくて、いつまでも泳いでいたくなるような優しい暖かさ。サウナの合間には、月桃とレモングラスの葉を煮込んで、爽やかな香りのお茶を飲んだ。

亜熱帯の自然の中で楽しむ、サウナテントの姿

 狩猟採集の生活をしたり、西表島の四季に合わせた暮らしをしているネイチャーガイドの赤塚さんにとって、ジャングルでのサウナはどんな体験だったのだろう。

「サウナの後に泳ぐと、見えてくる風景がいつもと変っているし、サウナの後に食べる果物やお茶は身体にしみ入る感じがしますね。今はパイナップルが旬だから今回はパイナップルやパッションフルーツを持って来たけど、サウナ後にはシークワーサーも合うかもしれない。シークワーサーを絞って、それに水と塩を入れて。

 西表島は普段から暑いけど、熱くなったサウナテントの中で汗をかいて川に入るのはお風呂みたい。西表島には湯船がないんです。お風呂がない。湯船に浸かってふぅーと声が出てしまうような、そういう楽しみを思い出しました。お風呂に入る感覚をサウナで体験出来るのは面白いですね。

  サウナテントは大人の遊び。こんな一見無駄なことをやるという贅沢さがある。島の暮らしには余暇が少ないんです。娯楽はあるけれど、何かの余韻を楽しんだり、心の贅沢を楽しむというようなことが少ない。西表島に川はたくさんありますから、どこでも泳ぐことができます。そこにサウナテントを持っていきたいですね。そして、冬にサウナテントをカヤックで運んで誰もいない浜で組み立ててみたい。西表島にはハーブがたくさんありますから、スチームサウナも合うかもしれないな」

 サヴォッタのサウナテントは、どんな環境にも自然に溶け込む。西表島の亜熱帯のジャングルのなかでも、周りの植物と一緒に優しく温めてくれる。その場所の自然やカルチャーを取り入れながら、サウナの時間を作っていける楽しさが、サヴォッタのサウナテントにはある。

 PHOTOGRAPHY & TEXT : MIKI TOKAIRIN

赤塚 義之(あかつか・よしゆき)
赤塚 義之(あかつか・よしゆき)

バジャウトリップ西表フィールドサービスの代表。八重山諸島の動植物の生態に詳しく、西表島を本拠地に主にカヤックを使ったネイチャーツアーを行う。

東海林 美紀(とうかいりん・みき)
東海林 美紀(とうかいりん・みき)

フォトグラファー。世界のサウナのフィールドワークを行う。ウィスキングやハマムなど、各地のサウナリチュアルを学び、その土地の植物や風土を取り入れたサウナトリートメントやワークショップを行っている。