対峙するのではなく、 自然と共存するためのアウトドアウェア「サスタ」

アウトドア・ブランド「サスタ」の歴史は、フィンランド東部にあるピエリネン湖北端に位置するヌルメスという街ではじまった。創業者は、この街で生まれ育ったウルポ・サースタモイネン。サスタを始める以前、フィンランド軍に従事していたという彼は、支給された服に使われていたサルカウールという素材が備えていた保温性や耐風性、撥水性、かいた汗から生じる不快なムレを軽減する優れた機能に注目した。

「この素材を使ったウェアで、スキーやアウトドアに出掛けたら素晴らしい体験になるだろう」

除隊後、そうした思いを具現化すべく大好きなハンティングに使おうとサルカウール・ジャケットを手作りした。すると、たちまち友人たちから同じものを自分にも作ってほしいと依頼されるようになっていく。

創業時のサスタの製品。

こうして歩みをはじめたサスタは、高い防水性と透湿性を備えた「ゴアテックス・ファブリクス」、確かな保温性に定評がある「ポーラテック・サーマルプロ」といった現代の機能性素材を使ったラインアップを揃えるとともに、 創業以来変わらない“北国の厳しい自然のなかで活動する人たちのため”という思いを大切にした製品作りを続けている。

創業のきかっけとなったサルカウールとは、イタリア・トスカーナ州の北西部にある繊維産業が盛んな都市プラートに伝わるリサイクル技術を用いた素材であり、着古されたニットウェアの端切れにバージンウール・ファイバーを紡ぎあわせた糸が使われている。さらに、これを煮沸したのちに織るという手の込んだ製法がとられる。天然素材であるウールが備える優しい風合いと、高い保温性と表面撥水性、加えて通気性と耐風性という相反する機能を備えているのが特徴だ。

彼らの存在をユニークなものにしている素材には、オーガニックコットンとリサイクルポリエステルを混紡した独自素材で作られるシェルジャケットもある。撥水加工剤などで有名なニクワックスの「コットン・プルーフ」加工も施されていて、降雪時はもちろん、小雨程度であれば充分に防ぐことができるのだ。

通気性と静粛性を兼ね備えるシェルジャケットは天然素材ならではの心地よさがある。

メンブレンをラミネート加工した防水透湿性素材とは異なり、完璧な防水性を求めることはできないのだけれど、この素材には異なる利点も備わる。最大の機能的な特徴は、通気性に優れていることであろう。厳冬期の登山では、かいた汗で体が冷えてしまうことを防ぐため、発汗量を抑えるような行動を心掛ける。そのような状況でも通気性に優れているため不快なムレを効率的に解消して、快適な衣服内環境を維持してくれるのだ。また、人の気配を隠したいハンティングにも用いることから、素材同士が擦れあう不快な摩擦音がしないという特性も備えている。

僕はバックカントリースキーに出掛けるとき、この独自素材を使った「ヴォーツァ・ジャケット」を羽織ることが増えている。ほどよい防水性と防風性、通気性があり、冬期登山やバックカントリースキーといった活動量の多いアクティビティ向けにデザインされているところも気に入っている。とくに、汗ばむような陽気が見込まれる春のスキーツーリングには最高だ。コットンライクな生地が生み出す風合いも心地よく、パウダーデイを狙ったスキーリゾート内での滑走でも贅沢な一日を送ることができている。 

冬のデイハイキングやキャンプなど、雨が降ることがない季節や山域でのシェルジャケットとしても最適だ。サスタの本拠地であるフィンランドの人たちは、遠くから空から雨雲が近づいてくると固形のワックスオイルをフードや肩まわりなどに塗って雨対策をするそうだ。広大な森林地帯では、はるか遠くから雲の動きをつかむことができるからこその使い方であろう。

天候の変化を察知し備えることもアウトドアの醍醐味であり重要なスキルだ。

もちろん、夏になると降雨量が増える日本では、完全防水のシェルジャケットでないと心細いという事情はある。しかし、バックカントリースキーやクロスカントリースキー、厳冬期のアイスクライミングといった状況ではこのうえない快適さをもたらしてくれる。コットンを混紡した素材独特の落ち着いた風合いから、旅行やライフスタイルウェアとしても手放せない一着となっている。

村石太郎(むらいし・たろう)
村石太郎(むらいし・たろう)

アウトドアライター。北米大陸最北の山脈ブルックスレンジに魅せられ、過去20年以上にわたって北アラスカの原野を彷徨う。日本国内はもとより、世界各地のフィールドやアウトドアメーカーへと精力的取材を続け、登山アウトドア各誌を賑わせている。