いつもの領域から一歩踏み出す、 旅するハンモック。

こんなに自由なのか!

夏でも冷たい水が流れる沢のすれすれにハンモックを張る。それがどんなに気持ちがいいかは説明不要だろう。昼寝よし、文庫本を読むのもいい。沢でビールを冷やしておいたら最高だ。

森の奥で、湖畔の木立で、海を望む丘で。ハンモックに体を預けると、ふわり宙に浮くような浮遊感と、やわらかなものに包まれる安心感が同時にやってくる。地上からたった数センチ上がるだけで、視界は地面に横たわったときとずいぶん違う。

ハンモックの歴史は南米のコロンビア、そしてメキシコやブラジルから始まったそうだ。夜も暑く、毒虫が多い地域で家の中にハンモックをかけて寝るというのは、涼を得るのと身の安全を確保するための必然だった。いつしかハンモックは、海辺のコテージや森のログハウスに備え付けてあるリゾートアイテムとして市民権を得た。そして近年登場したのが「トラベルハンモック」だ。

水面からこぶし1つ分上がったところにお尻が来るように。たわむ分を計算して張るにはそれなりのテクニックが必要だ。(写真提供:寒川一)

GRAND TRUNK(グランドトランク)は、アメリカ・イリノイ州で2001年に立ち上がったトラベルギアブランド。トラベラーたちの間で絶大な人気だという特製ナイロンのハンモックは、とにかく丈夫で、軽量かつコンパクトに収納できるのが何よりも魅力。本体重量は500mlのペットボトル以下。木の保護シート付きストラップやカナビラを含めても1kgに満たないから、デイパックに忍ばせてもまったく苦にならない。 

設置が簡単で、5分もあれば靴を脱いでごろんと転がれる手軽さもいい。登山の途中で、迎えの船待ちのちょっとした時間に、あるいは雪のバックカントリーで、地面のコンディションを気にせずさっと広げて横になれる。わずかな時間でも足を上げて体を横たえるだけで、思った以上にリフレッシュできるものだ。

荷物の中にハンモックが入っていれば、偶然出会ったステキな場所で立ち止まり、ゆったりと身を置くことができる。あるいはただ単に目的地についておしまい、ではなく、その場と一体になれる。親しくなれる。普段の領域から1歩、踏み出すことができる。

アメリカとカナダの国境をまたいで森と湖が広がるノースウッズにて。カヌーの旅で、迎えの船を寝て待つ寒川さん。(写真提供:寒川一)
テントにハンモックが加われば、心の豊かさぐんとアップする。火が焚けて、美しい自然があればパーフェクト。(写真提供:寒川一)

自由を享受するために守るべきこと

6月、UPI鎌倉で行われているハンモックのワークショップに参加して、ずしんと胸に響いたことがある。講師であり、ハンモックの達人である寒川一さんの言葉だ。

「アウトドアの遊びで享受できる自由とは、自己責任の上に成り立つ」

たとえば焚き火はその最たるものだが、アウトドアの遊びはしばしば、「個人の楽しみ」と「社会のルール」という境界線上をせめぎあっている。火を囲む側は楽しいが、周りからすれば、その煙が不快かもしれない。自分が熾す火への注意が足りなければ、生態系を壊すばかりか、山火事を起こす危険性もはらんでいる。焚き火のマナーが悪い人が目につけば、「直火禁止」「焚き火禁止」と規制はどんどん厳しくなり、自由から遠のいていく。

ハンモックが張れてもすぐに寝転んではいけない。まずは膝を立てて全体重をかけ、安全かどうかを確かめる。
夏は自宅でもハンモックで寝るという寒川さん。新婚旅行で行ったメキシコでハンモックに魅了され、シーツで手作りした経験も。

ハンモックも焚き火と同じく、日本でもっとも気軽に自然の中に入っていけるツールの一つだ。でも自由を楽しむには、個人が責任を果たす必要があるということを忘れてはいけない。

日本の一般的な公園では、共有の場所を占拠するからという理由で、法令によりハンモックを張ることはできないそうだ。「え、そんな法令があるの?」と驚き、そこに無関心だったことに気がついた。「みんなの公園なのだから誰でもハンモックを張っていいよ」とするブラジルや、「自然を破壊したり所有者を煩わせない限り、どこにテントを張ってもいいしハンモックを楽しんでいい」とする北欧とはずいぶん違う。私たちも本当の意味での自然との付き合い方を学ばないと、いつの間にか自然と親しくなる入り口が狭められているということになりかねない。

ハンモックハンティングという言葉が好きだ。これは「ハンモックを張る場所を積極的に見つけていく」という意味に、「自分の昼寝の場所ぐらい自分で勝ち取ろうよ」という意思を込めた造語で、自分たちのためだけでなく、未来に引き継ぐために、今やるべきことだと寒川さんは言う。「誰しもがハンモックで昼寝をする権利がある。それを遂行するためには自らの安全と木々への関心と感謝の気持ち、そして世間への配慮を忘れてはならない」と。

フィールドで教わること

鎌倉のフィールドまであと少し。材木座の海と逗子マリーナ、かなたに三浦半島の先端まで見渡せる。
ハンモックを張る木の幅は、ハンモックの全長プラス1〜2mが適切。寒川さんは目見当で「その間に車が停められるかどうか」だそう。

鎌倉のショップからちょっとしたハイキングを経て、気持ちのいいクヌギの森に到着。ハンモックを広げ、確実に安全に楽しめる張り方を学ぶ。健全な木の選び方と頭上の安全確認、木と木の間の適切な幅や地面のコンディション、ストラップとカナビラを使ってハンモックを張り、全体重をかけての安全チェック、快適な乗り方、などなど。

笑顔その1。製品は「グランドトランク ダブル デラックス パラシュートナイロン ハンモック」
笑顔その2。製品は「グランドトランク ローバー ハンギングチェア」

一通りのレクチャーのあと、参加者は思い思いの場所にハンモックを張る。初めての人は、最初はおっかなびっくり。普段からハンモックに親しんでいる人はグランドトランクの品定めも兼ねて。ただし、ハンモックに身を委ねるときのリラックスした笑顔はみんな共通だ。もしかしたらハンモックって、イライラを一瞬で吹き飛ばす最強アイテムかもしれない。

グランドトランクは専用のストラップもあるが、市販のロープで張る場合は、樹皮を保護するツリーウェアがあるといい。

ハンモックを安全に張るという技術的な面に加えて、もっと大切なことを教わった。それは木への関心、自然への感謝。

クヌギの木の根元の、蜜が溜まったところに虫が集まってきている。立ち枯れた木にはきのこが生えている。大人一人の体重を支えるために、木は男性4、5人分の力で踏んばっている……。

最後にもう一つ、これは寒川さんの友人がつぶやいたという言葉。

「ハンモックは自然とのコネクトツールだね」

コネクトとは、電源にコンセントを差し込むがごとく、木とロープを介してつながることで自然からエネルギーをいただいている、という意味。その通りだと思った。そして木にハグをして、「ありがとう」と言いたくなった。

ハンモックを楽しんだのち、スウェーデン式の煮出しコーヒー(レンメルコーヒー)を味わう。五感が開かれるようだ。
Photography by Yuko Okoso 
Text by Yukie Masumoto
増本幸恵(ますもと・ゆきえ)
増本幸恵(ますもと・ゆきえ)

編集者。エイ出版社、文化出版局で暮しまわりの雑誌やムックに携わり、現在はフリーランスで活動。食にまつわる書籍や雑誌の編集を主に手掛ける。生涯のテーマは見知らぬ土地への旅。いつか行きたいのは、スペインの巡礼路と、スウェーデンの建築家アスプルンドが手掛けた森の礼拝堂。

寒川 一(さんがわ・はじめ)
寒川 一(さんがわ・はじめ)

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。UPIアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

大社優子 (おおこそ・ゆうこ)
大社優子 (おおこそ・ゆうこ)

写真家。横浜・アマノスタジオにて森日出夫氏に師事。独立後、様々な広告写真やドキュメンタリー、出版物を手掛ける。現在に至るまで個展、企画展などを各地で開催。“DARK ROOM PHOTO SESSION”というテーマをその都度変えたポートレイト撮影会も行っている。鎌倉在住。