モーラナイフの選び方・ワークナイフ編 〜DIYやクラフトワークに適した実用ナイフの選び方〜

ワークナイフとは?

モーラナイフを生んだスウェーデンでは、建築工事関係でナイフを使用する頻度が高く、さまざまな用途に応じてナイフを使い分けてきました。この「ワークナイフ」は、そうしたニーズに応えるために性能と価格を追求した作業用ナイフシリーズ。家庭でのDIYからちょっとした建築物、アウトドアフィールドでの工作物まで幅広くカバーし、作業領域や用途に応じてさまざまなタイプをラインナップしています。

建築現場での職人仕事にも使える性能を持ちますが、お似合いなのは、DIYのクラフトワークや、アウトドアフィールドとの接点での作業です。たとえば、庭に小さな丸太小屋を建てたり、森のなかでツリーハウスを造ったり……。その際、ノミやノコギリといった従来の大工道具を揃える代わりに、腰に提げた数本のナイフを取り替えながら作業を続ける。そんなイージーでワイルドなシーンがイメージされます。

モノを切断するというナイフ本来の性能を基本にしながら、それぞれのモデルには個別の役割が添付されています。クラフトマンシップを発揮したモノ作りが好きな方はもちろん、暮らしのなかで役立つ便利な道具として、ご自宅に常備しておきたいナイフを見つけ出してください。

目次:

01 ワークナイフの優れた特徴

02 ラインナップからナイフを選ぶ

<コラム>「私が使っているワークナイフ」 by 長野修平

 

ワークナイフの優れた特徴

  • フィンガーガードが付いた安全設計

アウトドアナイフとの一番の違いは、ハンドルにしっかりとしたフィンガーガードが付いていること(一部モデルを除く)。衝撃に対する耐久性を向上させつつ、グローブをした手にもしっかりフィットする握り心地を実現。作業中の安全性を考えたハンドルデザインです。

  • カーボンスチールとステンレススチール

切れ味が要求されるモデルにはカーボンスチール、野外での長時間作業にはメンテナンスの手間が少ないステンレススチールと、ブレードには2つの鋼材を適材適所に採用しています。カーボンスチールは錆びやすいので、使用後はメンテナンスが必要です。

使い込まれた長野修平氏のワークナイフ達。

  • 連結して腰から提げられるシース

用途の違うワークナイフを取り替えながら作業するときに便利なように、シースは腰から提げられ、なおかつ、2本以上を連結できます(5角形の突起がついたシース同士のみ)。連結したまま腰のベルトや工具袋にフックさせることで、一度に何本も携行することができます。

  • 判別しやすいカラー別ハンドル

何本かを携行し、取り替えながら作業することを想定しているため、ハンドルはモデルごとに色分けされています。使い慣れれば、シースに収納された数本から、必要な1本を素早く取り出せます。

  • リーズナブルな価格

モーラナイフは、伝統的に受け継がれてきた丈夫な刃造りと握りやすいグリップを、工業製品として量産することで低価格を実現しています。実用ナイフとして気兼ねなく使ってください。

 

ラインナップから選ぶ

まずは「ワークナイフの定番」と言える4モデルから。

ベーシック511

柄素材:プラスチック 刃素材:カーボンスチール
刃長:約91mm 全長:約206mm刃厚:約2.0mm

 

プロ C

柄素材:TPEラバー 刃素材:カーボンスチール
刃長:約91mm 全長:約206mm刃厚:約2.0mm

 

ベーシック546

柄素材:プラスチック 刃素材:ステンレススチール
刃長:約91mm 全長:約206mm刃厚:約2.0mm

 

プロ S

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール
刃長:約91mm 全長:約206mm刃厚:約2.0mm

ワークナイフシリーズでも一番人気の定番4モデル。サイズも「刃長:約91mm、全長:約206mm、刃厚:約2.0mm」と共通です。プロフェッショナルからクラフトを趣味とする人たちまで、長期にわたって愛用されてきました。4モデルとも基本スペックは共通で「ベーシック511」はカーボンスチール、「ベーシック546」はステンレススチールとブレード素材が異なります。2つの「ベーシック」それぞれに、握り心地の良いTPEラバー製グリップを採用したのが「プロC」「プロS」です。

 

プロ ロバスト

柄素材:TPEラバー 刃素材:カーボンスチール
刃長:約91mm 全長:約206mm 刃厚:約3.2mm

3.2mmというモーラナイフ最大の刃厚を持つ屈強で万能なワークナイフ。ツーバイ材を削ったり、バトニングで叩き込んだり、DIYからキャンプやブッシュクラフトまで、非常に汎用性の高い1本。切れ味鋭いカーボンスチール製のブレードと衝撃に強くあらゆる気候でも使いやすいラバーハンドルを備えます。

 

プロ プレシジョン

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール
刃長:約75mm 全長:約191mm 刃厚:約2.0mm

細かい作業に適した1本。大工仕事の細部や壁の穴開けなど、細く短く尖ったブレードが活躍します。ブレードは手入れのしやすいステンレススチール製、ハンドルは握りやすいTPEラバー製です。

 

プロ フレックス

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール
刃長:約88mm 全長:約203mm 刃厚:約1.3mm

その名の通り、1.3mm厚の薄くてしなりのあるブレードが、ほかにない仕事ぶりを発揮します。ケーブル、ゴム、シリコンなど弾力ある素材の切断や、わずかな隙間に刃を滑らすような使い方に適しています。

 

プロ セーフ

柄素材:TPEラバー 刃素材:カーボンスチール
刃長:約82mm 全長:約198mm 刃厚:約2.0mm

プロユースに応えられる耐久性を備えつつ、先端を平らに落とした安全性にも配慮したナイフです。また、その平らな面はマイナスドライバーとしてやペンキ缶の蓋開けなどにも使えDIYの作業効率を助けてくれます。

 

プロ チゼル

柄素材:TPEラバー 刃素材:カーボンスチール
刃長:約75mm 全長:約193mm 刃厚:約3.1mm

小型のチゼル(タガネ)ナイフ。特殊な角度でグラインドされた長方形のブレードは3.1mmの刃厚を持ち、モーラナイフの中でも耐久性と強度に優れたナイフの一つです。衝撃に強いハンドルは様々な木工作業に適しており、ハツリや切断、はがしなどにも役立ちます。また、グリップエンドが木槌などで叩け、切れ味の良いカーボンスチールということもあり、日本のノミと同じような使い方ができます。

 

プロ ロープ SRT

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール(波刃)
刃長:約91mm 全長:約206mm 刃厚:約2.0mm

波刃状のブレードによって、ロープやファイバー、ナイロンなどの切断に適しています。

 

エレクトリシャン

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール
刃長:約21mm 全長:約154mm 刃厚:約1.4mm

細かい作業を要する電気工事用ナイフ。ワイヤーの切断からケーブル工事まで幅広く使用できます。ブレード根本にもフィンガーガードが付いており、より刃に近い部分で細かいコントロールが可能です。

 

ユーティリティ(サービス)ナイフ

柄素材:TPEラバー 刃素材:ステンレススチール
刃長:約49mm 全長:約160mm 刃厚:約2.0mm

短く使いやすいブレードを備えたユーティリティな1本。たとえば、梱包された段ボールを開封するときなどには、さっと抜いて便利に使えます。オンラインショッピングの頻度が多い方にもお勧めです。

 

ルーフィング フェルトナイフ

柄素材:樺材 刃素材:ステンレススチール
刃長:約70mm 全長:約190mm 刃厚:約2.0mm

屋根に敷く防水紙やフェルトの断熱材の切断に最適な1本。カーペットの切断にも最適。皮のカット(レザーワーク)にも使えます。 ステンレスで錆びにくいこともあり、山菜採りのナイフ(山菜鎌)としても多様する上級者(=長野修平氏)も。

 

<コラム> 私が使っているワークナイフ
by  長野 修平(モーラナイフ公認日本・台湾ローカルアンバサダー)

できるだけ自分で作ったモノで暮らすことを目標にしているので、365日ナイフを使わない日は無く、その時間も長いです。アウトドアやキャンプだけではなく日常的に、たとえば、器やスプーン作りにはグリーンウッドワーク系のナイフを使いますし、キャンプやフィールドでの仕事にはアウトドアナイフ、毎日の料理にはキッチンナイフを使っている。僕にとってナイフとは、趣味のものではなく、暮らしを作るために必然の道具なんですね。

そのなかで、このワークナイフはDIYや建築仕事でよく使っています。以前は妻の要望でまな板を乾かすためのスタンドを作ったり、今も娘からはネックレスを提げるボードを作ってほしいというように、ときどき家族から注文がくる。それらは出来上がったモノが完成ではなく、長年使って直していきます。自分や家族が使って、直しながら、どんどん自分たち好みのモノに仕上げていく。そこがおもしろいんです。

昨年の春には、裏の斜面に2ヶ月かけてドームハウスを手造りしたんですが、そのときは腰の道具袋にワークナイフを何本も提げて、その都度、抜いたり挿したりしながら使い分けて作業しました。

シースが連結できるから便利なんです。たとえば高いところの作業で4本持っていきたいときに、2連を2つ付けていけばいいし、作業が進んで次は別のナイフが必要となったら、中味だけを入れ替える。ハンドルが色分けしてあるから一目瞭然ですし、ナイフはシースへ差すとカチッとロックでき、シース自体もベルトにロックされる構造、さらにシースの突起を差し込んでねじるとシース同士がロックがかかるようになっているので、作業中も道具袋のベルトから簡単に落とすこともない。

たとえば「プロ フレックス」は仕上げ作業に使います。板の隙間に差し込んで調整するときにも使います。際の部分の仕事に良く使うのが「プロ チゼル」。ナイフなんだけどノミの役割もしてくれる。ノミと違ってワンハンドで作業できる。このあたりはナイフであることの強みです。

「プロ セーフ」は、先端に刃が付いてなくて、マイナスドライバーとして使えるんです。シルキーのポケットソーは使っているうちに刃の付け根緩んでくるので、マイナスドライバーが要ります。でもマイナスって、普段はほぼ使うことがなく常備するほどではないんです。だから、これがあると便利です。スクレーパー代わりに使ったり、ペンキの缶を開けたりもしてますね。

「ユーティリティ」は段ボールの梱包を開けるに使っています。使うときに刃を出さなきゃいけないカッターより、意外と楽に使えます。段ボールをリサイクルに出すときにも活躍しています。グリップ性も良く、言わば替え刃のいらない安全なエコカッターのような存在です。

そのなかでも、一番よく使うのは「プロ ロバスト」と「プロ プレシジョン」。両極ともいえる大小2本です。その中間的なナイフが「ベーシック」や「プロC」なんですが、あまり使うことがない。僕はザックリ行くか、細かく行くかの、どちらかです。

「プロ ロバスト」はツーバイ材をガツガツ削ったり、バトニングのように叩いて処理したりと。ノミと金槌、ノコギリとか、いろいろな工具が必要な作業を、これ1本でそれに近いことが粗くできてしまう。

逆に「プロ プレシジョン」はグリーンウッドワークのカービングナイフのように幅の狭い刃なので、細かい細工に使います。使い方としてはカービングナイフに近いのですが、これはシースに入れて腰に提げて持ち歩けるし、ステンレスでフィンガーガードがあることでよりラフに使うことができます。

日本建築のような家造りになってくると、もっと正確さが必要ですが、欧米のビルダーのようにセルフビルドで小屋を建てるようなときは、そこまでの道具は必要ないし、いちいち面倒なノミやノコを出すより、アックスとナイフだけでガツガツ造ることも多いんです。堅苦しくないし、イージーな良さを出せるのが、このワークナイフシリーズを使ったDIYや小屋造りです。

今、いろいろなところでDIYとアウトドアが融合しているじゃないですか。このワークナイフシリーズもまさにそうです。家でDIYに使えて、フィールドではアウトドアナイフとしても使える。プロの職人や工事現場の専用道具に比べて敷居が低くメンテナンスも楽でコンパクト。僕らにはラフで万能で、それでいてちょっとお洒落だし。まるで北欧のビルダーにでもなったかのような気分で、何より使っていて心地良い道具になっています。

TEXT:CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHY:YUKO OKOSO

長野 修平 (ながの・しゅうへい)
長野 修平 (ながの・しゅうへい)

モーラナイフ公認日本・台湾ローカルアンバサダー。ネイチャークラフト作家&アウトドア料理人。自然素材や古材を使った生活具の制作や山菜&焚き火料理を得意とし、雑誌・ウェブ連載、ワークショップ講師などで活躍中。神奈川・道志川の畔で半セルフビルドの自宅兼アトリエ「みのむしハウス」で里山暮らしをしながらアトリエ「NATURE WORKS」を主宰し、物づくりや自然の楽しさを伝えている。

寺倉 力(てらくら・ちから)
寺倉 力(てらくら・ちから)

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてスキー&スノーボードマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

大社優子 (おおこそ・ゆうこ)
大社優子 (おおこそ・ゆうこ)

写真家。横浜・アマノスタジオにて森日出夫氏に師事。独立後、様々な広告写真やドキュメンタリー、出版物を手掛ける。現在に至るまで個展、企画展などを各地で開催。“DARK ROOM PHOTO SESSION”というテーマをその都度変えたポートレイト撮影会も行っている。鎌倉在住。