フィンランドの森の香りを届ける小さなボックス〜 NYSTAD(ニュースタッド)と自然の恵み〜

フィンランドのサウナに欠かせない、白樺

NYSTAD(ニュースタッド)共同創業者のアヌさん、エヴァさん、タニヤさん。長年の友人3人に共通するのは、全員がサウナ好きであること。3人は何かサウナに関するビジネスを始めたいと思っていた。

2018年に今のニュースタッド製品のアイディアがひらめいて、白樺の葉を乾燥させてパックに入れた製品が生まれました。フィンランド人にとって、白樺の香りはサウナの経験と強く結びついています。特に、夏のサマーコテージのサウナは特別なもので、そこに白樺は欠かせません。白樺の枝葉を束ねて、フィンランド語ではヴィヒタやヴァスタと言いますが、ウィスクを作ってサウナの中に持っていきます。サウナストーブの上の石に水をかけて、ウィスクを蒸気であたためて体をはたくと、フレッシュな白樺の香りがサウナの中に広がります。このサウナと白樺の香りは私たちにとって、とても特別なものです」

前からアヌさん、タニヤさん、エヴァさん
白樺の葉を乾燥させてパックに入れた”サウナセント”

フィンランドの短い春と夏、季節の恵

「白樺は、フィンランドの国の木。フィンランドの自然の象徴です。春には白樺のシロップ。夏の成長に向けて十分に栄養を蓄えている時期なので、その時期に採れる白樺の樹液は特別なもので、化粧品としても使われます。枝を切ってドアに飾ったり、コブをくり抜いてカップのククサにしたり。白樺が私たちの生活を守ってくれている気がします。白樺は他の木と比べて柔らかい葉としなやかな枝をもつことが特徴ですが、女性的な木ともいわれています」

 ニュースタッドの製品は、収穫した白樺の葉を乾燥させ、細かく粉砕してそれをパックに入れたもの。サウナに入るときにそのパックをしばらくお湯に入れて、サウナストーンにかけると、まるで白樺のウィスクを使っているかのように、白樺の香りがサウナの中に広がる。

「フィンランドは森の面積が国土の75%を占める国。森に自生している木の中で一番多いのは松だといわれていて、2番目に多いのが白樺。ジュニパーもサウナの中ではよく使われる植物ですね。松とジュニパーは葉を乾燥させて使うよりもオイルにされることが多い木です。白樺だけのオイルを作ることは難しく、市販のものにはローズマリーやユーカリなどがブレンドされていることが多いのです。白樺の葉には、ビタミンやポリフェノールなどの栄養素が含まれていることがわかっています。ニュースタッド製品の特徴は、とにかくナチュラルであること。白樺を採取するのは夏で、森にはたくさんの蚊が出る季節です。それでも、採取する人たちは、自分の肌に虫除けを使うことはできません。」

「フィンランドでは、よく使われる白樺は2種類です。ダウニーバーチ(和名:ヨーロッパダケカンバ)とシルバーバーチ(和名:オウシュウシラカンバ)。それに加えて、ラップランドに自生している、ドワーフバーチ(和名:ヒメカンバ) もあります。ダウニーバーチは強い香りを持つのが特徴で、ニュースタッドではこの白樺を使っています」

シルバーバーチはダウニーバーチよりも大きく育ち、そして枝がしだるのだそう。ラップランドの白樺は葉が小さく茂みのように枝を伸ばし、ビタミンを多く閉じ込めているといわれている。フィンランドの冬は長く、夏は短い。その短い夏の日々は、太陽が遅くまで沈まない。冬の厳しい寒さと夏の日照時間の長さは、植物に強い生命力を与えるのだろう。

「ダウニーバーチに比べてシルバーバーチは枝葉が強いのが特徴で、ウィスクを作るときには、このシルバーバーチを使います。ふたつの葉の特徴を活かしながら、ダウニーバーチをシルバーバーチで包んでしまうことがあります。枝葉の強いシルバーバーチで香りの強いダウニーバーチを守ってあげるのです。そうすることによって耐久性をつけます。それくらいシルバーバーチは繊細な葉を持っていますが、枝はしなやかで丈夫。ウィスクをしばるときには枝の皮を剥いてロープにします」

たった3週間の収穫期とクリスマスサウナ

 ニュースタッドの商品のために採取するときも、ウィスクを作るときでも、白樺の葉が茂る夏の間であればいつでもよいわけではなく、採取する時期が決まっている。

「ニュースタッドの白樺は、フィンランド南部のものを採取していますが、その時期はだいたい夏至の前になります。フィンランドも日本と同じく縦に長い国ですので、それぞれの地域で収穫の時期は異なりますね。北部のラップランドでは、南部よりも二週間くらい後になります。ただ、その時期も、その年の天気によって変わります。エネルギーが強くて香りも良く、乾燥させるのにベストな状態の白樺は、一年の間で三週間しかないんです。よく、新芽の頃が一番良いのではと言われますが、それでは葉が柔らかすぎて、十分な栄養も蓄えていません。そのタイミングを越えてしまったものは、逆に葉が硬すぎてしまう。そのタイミングを見極めて採取することがとても大切なのです」

「白樺採取の時間は、お昼過ぎくらい。なぜかというと、できるだけ乾燥している葉を採取したいから。午前中の葉は朝露に濡れて水分を含んでいるので、葉が乾いていて太陽が高い時間、午後早くに採取します。よい白樺の葉は、フレッシュで綺麗な緑色。葉は強く、破れていません。植物を採取してからは、直射日光に当てないことも重要です。なので、ウィスクをつくるときにも、採取した後は直射日光にあてないことが大切ですね」

 フィンランドで大切なお祝いの夏至とクリスマス。このふたつを祝うときに、サウナと白樺は欠かせないものだ。大晦日の夜にお風呂に入ったり、お蕎麦を食べることは、日本では一年の締めに大事なように、クリスマスのサウナも精神的に一年の汚れをとるサウナとしても特別なものらしい。 

「夏至の前に採取した白樺を乾燥させて、クリスマスサウナに備えます。クリスマスのサウナはフィンランド語でヨウルサウナと言いますが、これは家族によって入り方は違うものの、家族が揃うクリスマスに入るサウナとしてとても大事だということは変わらないですね。帰省した友達と集まって、みんなでサウナに入ることもあります」

サウナから自然を享受するということ

 ここ数年、再び注目を集めるワイルドフード。フィンランドでも、キノコを採ったりベリーを摘むことはとても身近なもの。そして、自然享受権を持つフィンランドでは、植物の採取は身近なものでも、採りすぎないことは全てに共通するルールだ。

 「森の白樺を採取することは、間伐にもなりますね。ただ、白樺の枝葉の採取は、自然享受権の権利のなかに含まれていません。ですから、その森の所有者に許可を取らなければいけないんです。また、若い白樺の木を採取するときでも、木を倒さないこと、そして全体の3分の1以上は採取してはいけないといわれています。植物のために、そして森のために、採りすぎないことはとても大切なことです」

香りは、「白樺」「白樺&ラベンダー」「白樺&ミント」の3種類(2021年12月1日現在)

 「白樺は、サウナの中でウィスクとして使われてきただけではありません。自然の石鹸ともいわれるほど洗浄能力もあり、髪や肌には保湿の効果があるともいわれています。この小さなボックスは、グリーンでクリーンな、そして幸せな国フィンランドを体験できるもの。これだけフィンランドサウナが世界中に増えてきているのですから、多くの人に、フィンランドのサウナで欠かせない白樺の香りを楽しんでもらいたいですね。日本は自宅でお風呂に入る人も多いですから、お風呂に入れて使うのもよいかもしれません」

 サウナ、そしてさまざまなシーンと結びついている白樺。フィンランドの自然のシンボルである白樺の葉がそのまま詰まっているニュースタッドのボックスは、フィンランドの自然と森そのものを、どこにいても感じさせてくれる。

TEXT:MIKI TOKAIRIN
PHOTOGRAPHY FROM NYSTAD SAUNA

東海林 美紀(とうかいりん・みき)
東海林 美紀(とうかいりん・みき)

フォトグラファー。世界のサウナのフィールドワークを行う。ウィスキングやハマムなど、各地のサウナリチュアルを学び、その土地の植物や風土を取り入れたサウナトリートメントやワークショップを行っている。