ウールパワーのはじまりとこれから 〜スウェーデンの厳しい寒さから人びとを守るために生まれたウルフロッテ 〜

厳しい寒さから命を守るために生まれた編み方「ウルフロッテ」

Q. ウールパワーとその製品が生まれた背景を教えてください。

クリスティアン:
1960年代後半、スウェーデン国防軍の軍人たちが、厳しい寒さによって任務中に命を落とすことがよくありました。それはとても大きな問題で、当時の軍人たちが着ていたウェアもとてもよくできたものでしたが、さらに改良することが急務だったのです。そこで、スウェーデン軍関係者たち、科学者たち、そして企業家たちが一緒になって、保温性のある新しい素材の服を作ることになりました。そのときに生まれた素材がUllfrotté(ウルフロッテ)と呼ばれるものでした。

インタビューに答えてくれたウールパワーのマーケティング責任者であるクリスティアン・シャーネレッド氏。

 

Q. ウルフロッテはどのような特徴を持っていたのでしょうか?

クリスティアン:
ウルフロッテには特殊な編み方が採用されていて、肌にあたる面積がとても小さいのが特徴です。その肌との接地面積が小さいぶん、大きい空気層を生地内に作ることができるため、身体を暖かく保つことが可能になりました。これは寒さの厳しいスウェーデンの冬から人々の命を守る画期的な発明でした。

糸がループ状に連なるウルフロッテ。一般的には”テリー編み”に該当するが、その密度や重なり方はウールパワーならでは。

 

Q. ウールパワーはもともと「ウルフロッテ」と呼ばれていましたね?

クリスティアン:
ウールパワーの元となった会社は、スウェーデン中部にあるエステルスンドに1969年に創業された女性向けに下着や靴下を製造していたヴィネッタという名前の会社でした。しかし、この時代、海外製商品がスウェーデン国内に入ってきたことによって競合他社が増え、そのビジネスは終りを迎えようとしていました。そこに、ウルフロッテという技術が生まれ、商品にも応用できるんじゃないかという話しになったのです。もともと縫製の経験と知識もあったヴィネッタはウルフロッテの製法を採用し、会社名もその素材の名前のまま、ウルフロッテになりました。

1970年のはじめから、ウルフロッテはスウェーデン軍とともに発展しました。サステナブルでメンテナンスが簡単な、暖かい服を生み出すこと。そして、全てスウェーデンメイドであること。それは創業当初から変わりません。その後、2000年代により広く一般にウルフロッテという製法やメリノウールという素材の価値を広めるため、社名とブランド名を「ウールパワー」に変更したのです。

「ウルフロッテ」から「ウールパワー」へ社名及びブランド名が変わったのは比較的最近のこと。

 

組み合わせ方次第でどんなシーンでも

Q. いまも変わらないウルフロッテの魅力とは?

クリスティアン:
ウルフロッテという編み方はとにかく強い。耐久性があってサステナブルです。いつまでも着ることができる。15年以上もウールパワーの同じジャケットを着ている人がいるのですが、もちろん、それだけ長く着ていれば毛玉も多くつくもので、同じ時期に買った人同士で、誰のジャケットに一番毛玉がついているかを競ったりしています(笑)。古くからのウールパワーのファンの人たちですね。

また、ウルフロッテには200g/m²、400g/m²、600g/m²、800g/m²などの多くの「生地重量」があるのも特徴です。例えば、「ウールパワー フルジップジャケット 400」の生地重量は400g/m²であり、比較的軽量ながら高い保温性をもつジャケットであることを意味します。

それらの様々な生地重量をレイヤーで組み合わせることで、その人に最適な着方になります。組み合わせ方に決まりはなく、200の上に200を着る人もいるし、200の上に400を着る人もいます。その人がいいと思えば、400の上に400だってありえるわけです。タートルネックの上にTシャツを着る人もいるように、山に登るとき、ランニングするとき、家の中にいるとき、長い間外にいないといけないときなど、それぞれのシチュエーションに合わせて自分なりに組み合わせていけば、あなたにとって最高の組み合わせが見つかるでしょう。

ウルフロッテは生地重量が200g/m²・400g/m²・600g/m²・800g/m²と、目的や用途にあわせて選ぶことができる。

 

Q. ウールパワーの製品が快適なのは冬だけではありませんね? 

クリスティアン:
ウルフロッテはもともと寒さから守るための冬の服として始まりましたが、メリノウールが薄い生地も作れる汎用性の高い繊維であるということがわかり、現在ではオールシーズンで使えるラインナップが揃っています。もし機能性を重視するなら、あまりに薄くしすぎると機能性は無くなってしまいます。だから、春夏用にはライトシリーズが一番最適なように作られています。

 

これからの100年先にも、あたたかさを届けるために

Q. これからのウールパワーについて教えてください。

クリスティアン:
製品そのものがサステナブルであるために、毎年、新しい製品をリリースすることをしていません。だから、カタログを見ていただいても、毎年同じ色のものばかりで、カラーパレットのようにたくさんのカラーバリエーションを揃えるということはないんです。

ウールパワーはこれからの100年、そしてそのもっと先を見ています。だから、いろいろな人から、これもあれもやったらいいんじゃないかと言われても、自分たちが素晴らしいと思う製品を自分たちのやり方で作り続けるだけです。今、自分たちが作っている製品に満足しているからこそ、大切にしていることは、サステナブルな企業であることを続けながら、世界中の人たちにメリノウールで作ったウールパワーの製品を届けることなのです。

2022年に新しくなったウールパワーの自社工場。より地球環境や労働環境に配慮された新拠点となっている。その詳細はまた次回に。

INTERVIEW & PHOTOGRAPHY: MIKI TOKAIRIN

東海林 美紀(とうかいりん・みき)
東海林 美紀(とうかいりん・みき)

フォトグラファー。世界のサウナのフィールドワークを行う。ウィスキングやハマムなど、各地のサウナリチュアルを学び、その土地の植物や風土を取り入れたサウナトリートメントやワークショップを行っている。