グリーンウッドワークとは?
「グリーンウッドワーク」とは、アックスやカービングナイフといった手道具を使って生木を削り、スプーンや器など生活の道具を作るクラフトカルチャーです。材料は伐採直後のやわらかな生木を使うため、生木ならではのスルスルと削リ出す感触も爽快で、時間が経つのも忘れるほど。そうして楽しんで削り出した作品は、温もりあふれる暮らしの道具になります。
なぜ生木を削るのでしょうか。電動工具などの道具がなかった時代には、やわらかな生木の状態で加工することが一般的だったといいます。たとえば、椅子も生木の状態で加工し、乾燥による収縮を利用して接合部を固定していました。動力を利用して木を加工できるようになってからは、狂いの少ない乾燥した木材を使うようになりましたが、歴史的にはむしろ、生木を加工していた時代のほう長かったほどです。
モーラナイフのカービングナイフシリーズは、世界中のグリーンウッドワーカーが愛用している専用ナイフで、ほかに類がない製品といえます。このナイフを使ってスプーンやボウルといった暮らしの道具を、愛情を込めて手作りしてみませんか。
目次:
<コラム>「私が使っているカービングナイフ」 by 福畑慎吾
カービングナイフの基本
グリーンウッドワークを楽しむには、製作工程ごとに道具を使い分けることが必要です。たとえば、スプーンを作るには、作業順から手斧、ストレートナイフ、フックナイフを使い分けます。また、場合によってはノコギリも用います。スプーンの作り方を例に、どんな道具が必要なのか、工程順に見ていきましょう。
「手斧でアウトラインを削り出す」
まずは伐採した生木を入手し、手斧でサイズに合った角材に切り出します。材料の入手が難しい場合は、あらかじめカットされた「グリーンウッドワーク 真空パック材」(UPIではスプーン用と豆皿用にそれぞれ2種類の生木を販売)が便利です。
角材にスプーンのアウトラインを書き込み、手斧を使って削り出していきます。その際、カービング用に作られた「カルソフ」の精巧な手斧を使うのがお勧めです。薪割りや枝打ちに使う一般的な手斧でも不可能ではありませんが、グリーンウッドワークに適した削り出しや細かい作業での性能や、長く削り続けても疲れないバランスの良さなど、世界中のグリーンウッドワーカーに愛用されています。
手斧で削り出す際、スプーンの柄の首部分にノコギリで切り込みを入れ、そこに向けて斧で削り出すと、柄の角度や、取り付け部分のくびれを簡単に削ることができます。
「カービングナイフで周囲を仕上げる」
手斧でアウトラインをできるだけ削り出したら、次はカービングナイフで削りながら仕上げていきます。スルスルと、やわらかな生木を削る感覚を楽しめるメインと呼べるパート。グリーンウッドワークは彫刻と同じく、マイナスのモノ作りです。どこまで削るか、どこで止めるかは作り手次第です。
カービングナイフは、刃長の長い「ウッド カービング 106」と、刃長の短い「ウッド カービング 120」の2本を使い分けると作業がスムーズです。
刃長の長いモデルは、スプーンの柄のような長い部分を削るときに有利です。刃元から切っ先まで、あるいは切っ先から刃元まで、刃の長さを有効に使ってスライドさせながらカットします。これは刺身包丁で刺身を引くのと同じ原理で、力を使わずスムーズに刃を使え、なおかつ、美しく仕上げることができます。
刃長の短いモデルは、細かい部分の作業に適しています。スプーンの場合、受け皿部分の周囲を丸く仕上げるときに欠かせません。ナイフを回しながら削るために、刃元の太い部分ではなく、切っ先の細い部分を使います。その際、短いほど切っ先が手元に近く、場合によっては切っ先近くを持って削ることもあります。したがって、刃長の短いナイフが必要になります。
はじめてのグリーンウッドワークで、最初から2本揃えるのが難しい場合は、スプーンを作るなら、取り回しの良い短いほうをお勧めです。
「フックナイフで内側を彫る」
フックナイフは、スプーンやボウルの内側を彫るのに最適なブレードを持つグリーンウッドワーク用ナイフです。刃の付き方や形状の違いで、大きく分けて3タイプ4モデル、それぞれに特徴があります。「フックナイフ164 ライト」「フックナイフ164レフト」はシングルエッジ。「フックナイフ162ダブルエッジ」「フックナイフ163ダブルエッジ」は両側にエッジがあるタイプ。
シングルエッジは、刃の峰の部分を指で押しながら削ることができます。ブレードに指を添えて削れるので刃の角度を感じやすく、ダイレクト感ある削り出しが可能。細かい仕上げにも最適です。
右利きの人は「ライト」モデル、左利きの人は「レフト」モデルで「引き」ながら削りますが、利き手で「押し切り」にも使えるように左右両モデルを揃えるグリーンウッドワーカーもいます。
ダブルエッジは1本で「引く」ことも「押す」こともできるので、効率の良い作業ができます。ただし、ブレードに直接添える部分が制限されるため、細かい作業よりも大きな作業に向いています。
カービングナイフラインナップから選ぶ
ウッド カービング ベーシック
刃長約80mm、全長約190mm、刃厚約2.0mm
軽いロック機能のあるシース付きで、軽くて丈夫なプラスチックハンドル。ストレートナイフで唯一、お手入れしやすいステンレススチールの刃を持ち、扱いやすく、コストパフォーマンスの良いモデル。グリーンウッドワークに限らず、入門用の木工ナイフとしても最適です。
ウッド カービング 105
刃長約79mm、全長約200mm、刃厚約2.7mm
長めの刃を持つラミネートスチール製ブレードのカービングナイフ。特徴的なハンドルは自分の手に合わせて最適な形にシェイプできるよう大きめに作られています。
ウッド カービング 120
刃長約60mm、全長約165mm、刃厚約2.5mm
世界中のグリーンウッドワーカーが愛用する定番的なカービングナイフ。約60mmという短く幅の狭いブレードは細かい作業がしやすく、鋭い刃先は細かい部分まで精工に仕上げることが可能です。白樺の円錐形ハンドルは、カービング時に順手から逆手を含むさまざまな握り方に対応する自由度の高い形状でありながら、つねに膨らんだ中央部分が手の中で自然にフィットします。
ウッド カービング 106
刃長約82mm、全長約190mm、刃厚約2.5mm
「ウッド カービング 120」と同じく、世界中で愛用されているカービングナイフの定番。こちらは約82mmという長いブレードを持ち、スプーンの柄など長いパーツを一度に大きく削るのに最適です。106と120、長さの異なる2本を使い分けると作業効率が良く、完成度もアップします。
ウッド カービング 122
刃長約59mm、全長約170mm、刃厚約2.7mm
サイズも形も「ウッド カービング 106」とよく似ていますが、こちらはストレートな刃を持つモデル。刃先に力を入れて削りやすく、チップカービングのような細かい模様や絵柄を刻み込むのに最適です。
フックナイフ 164 ライト
刃長約55mm、全長約170mm、刃厚約2.0mm
右利き用のシングルエッジ、ステンレススチール製フックナイフ。峰の部分は刃がないために、左手で峰を押して削ることが可能です。フックのカーブは狭めで、スプーンやボウルの内側を削るのに最適な形。地元の皮工場で作ったスウェーデン産植物タンニンなめし革のシースが付属しています。
フックナイフ 164 レフト
刃長約55mm、全長約170mm、刃厚約2.0mm
こちらはシングルエッジの左利き用。ブレードは同じくステンレススチール製で、峰の部分を右手で刃を押して彫ることが可能です。フックのカーブは狭めで、スプーンやボウルの内側を削るのに最適な形。地元の皮工場で作ったスウェーデン産植物タンニンなめし革のシースが付属しています。
フックナイフ 162 ダブルエッジ
刃長約55mm、全長約170mm、刃厚約2.0mm
押しても引いても彫ることができるダブルエッジ。刃の素材はお手入れしやすいステンレススチール製。刃長やサイズ感、フックのカーブはシングルエッジの「164」と同じで、スプーンやボウルの内側を彫るのに最適です。地元の皮工場で作ったスウェーデン産植物タンニンなめし革のシースが付属しています。
フックナイフ 163 ダブルエッジ
刃長約74mm、全長約190mm、刃厚約2.0mm
押しても引いても彫ることができるダブルエッジで、「フックナイフ 162 ダブルエッジ」よりもフックのカーブが大きめで、表面を滑らかに仕上げたり、直径が大きめのボウルの内側を彫るのに最適。地元の皮工場で作ったスウェーデン産植物タンニンなめし革のシースが付属しています。
コラム「私が使っているカービングナイフ」
by 福畑慎吾(UPI グリーンウッドワーク インストラクター)
まずはナイフの前に手斧ですが、これはカルソフの「スモールカーバー01」という世界で唯一無二のカービング用アックスを使っています。カービング専用のもので、薪割りや枝打ちには向いていませんが、スプーンや器作りの際にパワフルに削り込む段階から、細かい作業に至るまで、この手斧1本で削ることができます。今、世界中のグリーンウッドワーカーが魅了され、この手斧を使っています。
逆に手斧を使わず、最初から最後までナイフでやろうとすると、心が折れますね。スプーン1本に3日も4日も掛かるし、手も痛くなってイヤになってくる。手斧を上達させることは、グリーンウッドワークを続けるためのコツでもあるんです。
カービングナイフは短い「ウッド カービング 120」と長い「ウッド カービング 106」を使い分け、フックナイフはシングルエッジの「フックナイフ 164 ライト」。あとはシルキーの「ポケットボーイ170」というノコギリがあれば、スプーンは削れます。
以前はストレートナイフ1本で仕上げられたほうがカッコいいと思って、1本でいろいろ削れることにこだわっていました。でも、そうではないと気づいた今は、刃長違いの2本のカービングナイフを使い分けています。
スプーンでいえば、8、9割の形まで手斧で削り出し、そこから先はナイフでていねいに仕上げていきます。時間的な点でいえば、私はスプーン1本をだいたい40分で仕上げることができますが、手斧が10分ほどで、その後、30分くらいかけてていねいにナイフで仕上げます。
私は「ウッド カービング 122」とダブルエッジのフックナイフは使いません。「122」は「120」とサイズも形も似ていますが、刃が逆に付いているために、一緒に置いておくと危ない。うっかり峰だと思って刃のほうを指で押してしまう危険性がある。両刃のフックナイフを使わないのも同じ理由です。逆に両刃を愛用している人も多くいますので、ここは削る人によって好みが分かれるところですね。
手斧が担う役割と、ナイフが担う役割を理解し、手斧でも細かいところまで削れ、またナイフでもたくさんの部分を削れるようになったときに、手斧からナイフに持ち替えるタイミングが理解できます。それまでは、手斧で細かい部分が削れず、ナイフでも大きく削れないという辛い時期が続くのですが、ようやくふたつの道具を使い慣れたときに、二つの道具の範疇が重なり、移行がスムーズになります。
初めてワークショップに来られるような人は、5時間の時間内で一杯いっぱいですが、道具の扱いに慣れ、短時間で良いものが削れるようになると心の余裕も生まれます。
ワークショップには女性の参加者がたくさんお越しくださいますが、会社帰りにヨガやフィットネスに行くように、今日はコーヒーでも淹れて、スプーンをじっくり1本削ってみようかなとか、そうなると思うんですね。削るという行為はメンタルヘルスにすごくいい。無心になって集中するから時間を忘れますし、頭もすっきりしますからね。
モーラナイフに出会う前は、日本の切り出しから海外のアウトドアナイフまでいろいろ使ってみたのですが、カービングナイフという役割では、これが一番頼りになります。使えば使うほど、ナイフが自分の手の延長線上になる。これがないと不便で仕方ありません。
グリーンウッドワークの技術に即したさまざまな持ち方や、握り方ができるハンドルの形や大きさだったり、ブレードは切れ味はもちろん、刃の長さや細さは取り回しの良い絶妙なバランスで、ウッドカービングに重要な要素を備えていることを考えると、世界中の多くのクラフトマンに長年愛用されている理由が分かります。
TEXT:CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHY:NEIL KUKULKA
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Morakniv | モーラナイフ 【カービングナイフ紹介】