モーラナイフ・ワークショップ Telacoya921  ―スウェーデンからのゲストと焚き火を囲む

11月9日、葉山の暖かな秋の日。「うみとやまのおうちえんTelacoya921(テラコヤクニイ)」では、アウトドアライフアドバイザー、寒川一さんによる恒例のモーラナイフのワークショップが始まった。今年度の第2回、対象は幼稚園の年長さんたち。ワークショップは今年が5年目となる。

でもこの日のワークショップはちょっと特別。スウェーデンから来日中の、モーラナイフのCEOであるヨハン・バルタスさんとサプライチェーン責任者マッツ・オスリングさんがゲストなのだ。二人は少し離れたところからワークショップを見守る。

 

ナイフの種類についてのお話からスタート

 園の縁側に並んで座った年長さんたちに、寒川さんがナイフについて語る。

「ナイフはいくつか種類があって、それぞれできることが違うんです。これはなんと水に浮くナイフ。水に浮くとどんないいことがあるだろう」

 ひとりが、「海に落としたときに浮く」と答える。

「さすが、葉山のコだね。そう、ヨットなんかに乗って、もし自分が海に落ちてひっかかったロープを切らなくちゃいけないとき、このナイフで切ったりする。命を守るナイフです。オレンジ色なのは海に落としても目立つからなんですね」

 ほかにも火を熾したり、斧のように使うナイフ、木を削って道具を作るためのナイフ、魚をおろすなど料理をするためのキッチンナイフと、子どもたちに次々紹介していく。子どもたちの視線が寒川さんの手元に集まる。ナイフ11本、それぞれに目的があることを教わる。

 

自分だけのナイフをつくる

このワークショップでは終了時に子どもたち全員にナイフを渡す。そのナイフのハンドルには自分だけのマークを入れる。

「好きな絵をマークとしてナイフのハンドルに入れてもらいます。絵を見れば、すぐに誰のナイフかわかるでしょう? 自分だけのナイフです。何年も何年も、ずっと使えるナイフなんだよ。もしかしたら将来、君たちの子どもに渡すことになるかもしれない。そのときに自慢できる、カッコいいナイフにしようね」と寒川さん。

 何のマークにする? マークを考えるのは次回までの宿題となった。

 

モーラ地方の伝統的な馬のおもちゃ

 ここでゲストの二人から、子どもたちにスペシャルな贈り物が手渡された。

「モーラナイフのふるさと、モーラ地方でつくられている木の馬と折り畳み式のカップ、ステッカーです。この馬はモーラナイフでつくられていて、指で触るとナイフで彫ったことが感じられます」

覚えたてのスウェーデン語の「タック(ありがとう)」と言いながら受け取る子も。恥ずかしそうにしている子には、先生から「ちゃんと目を見てお礼を言おうね」と声がかかり、はにかみながらヨハンさんを見上げる。

 馬はスウェーデン語でヘストという。何百年も前、モーラの男が家を建てるための木を伐りに森へ行く。夜になって家に帰り、暖炉の前で子どもたちにさまざまな木のおもちゃをつくった。そのなかでいちばん人気だったのが馬で、次第に色をつけたり模様をつけるようになり、モーラ独自のものとなっていった。そんな物語を聞かせてもらった。

 子どもたちからのお礼は、Telacoyaのオリジナル手ぬぐい。みんなとおそろいだ。二人はすぐに首にかけたり頭に巻いていた。

 

ワークショップの先輩たちがフェザースティックをつくる

 そうするうちに、卒園生が次々にやってきた。先生たちは「おかえりー」と迎える。みんなが集合したら、焚き火をするのだ。

先生が「ナイフは持ってきた? なんと今日は、モーラナイフの社長さんたちがいらっしゃってます。みんな、自分のナイフを見せてさしあげて」と言うと、ナイフワークショップの卒業生でもある小学生が、順番に自分のナイフを披露する。

ヨハンさんもマッツさんも、「すてきですね、これは何の絵?」と尋ねる。通訳を通して子どもたちも返事をする。

 寒川さんから「みんな、ナイフの使い方は覚えているよね。フェザースティックをつくりましょう」と促され、細い薪を受け取った卒園生たちは縁側に座る。手ぬぐいをひざに広げてナイフで薪を削り始めた。どの顔も真剣だ。マッツさんも一緒にフェザースティックをつくる。

 園庭のファイヤーサークルに薪を並べ、フェザースティックを置く。ヨハンさんがメタルマッチを使って火をつけることになった。

「みんなが見ているから緊張します」と笑いながらも、無事着火。「わー」と歓声が上がる。

 この日はほとんど風がなく、煙がまっすぐ空に上がっていく。子どもたちが座って、火を育てていく寒川さんを見つめる。

 ヨハンさん、マッツさんが園を去るとき、子どもたちは覚えたてのスウェーデン語のさようなら「ヘイドー」と言いながら手を振った。「ヘイドー」「またねー」。

 

ナイフは一生のコンパニオン

 ワークショップはどうでしたか? モーラナイフの二人に聞いた。

「ファンタスティック! 集中して、楽しんで、行儀もいい。お話を聞くときの子どもたちの姿に感動しました。ナイフを使う子どもたちもきちんとディスタンスをとっているし、使い方もすばらしい。安全についても学んでいることがよくわかりました」(ヨハンさん)

「みんな落ち着いていて、セーフティファースト。ナイフを持ったまま走ったりもしない。本当にかわいらしくて愛おしく感じました」(マッツさん)

ワークショップも5年目ということで、先生たちもすばらしいとヨハンさん。ナイフの知識があり、子どもたちにきちんと伝えていることに感激したそうだ。

スウェーデンではナイフはコンパニオンだという。パートナーや仲間といった意味合いだ。決して武器ではない。ワークショップを卒業しても、ここの子どもたちは自分のナイフを傍らに置いてずっと仲良くしていくことだろう。

 

TEXT: KASUMI OIKAWA
PHOTOGRAPHY: YUKO OKOSO

Johan Burtus (ヨハン・バルタス)
Johan Burtus (ヨハン・バルタス)

モーラナイフ(Morakniv AB)のCEO*。モーラナイフが本拠地を置くモーラ地方出身。本格的な市民ランナーであり、過去に10回以上フルマラソンを完走した経験を持つ。同時に週末は森や湖などで家族と過ごすことを大切にしている父親でもある。*2022年12月現在

Mats Östling (マッツ・オスリング)
Mats Östling (マッツ・オスリング)

モーラナイフ(Morakniv AB)のサプライチェーンマネージャー。長年、生産管理の責任者としてモーラナイフの品質を守ってきた。家族を常に第一に考え行動することをモットーとし、ムーラ市近郊の湖畔にある自宅は家族、親戚、友人が集まる拠点となっているそうだ。

寒川 一(さんがわ・はじめ)
寒川 一(さんがわ・はじめ)

1963年生まれ、香川県出身。アウトドアライフアドバイザー。TAKIBISM ディレクター。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、メーカーのアドバイザー活動や、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。とくに北欧のアウトドアカルチャーに詳しい。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。

寒川せつこ(さんがわ・せつこ)
寒川せつこ(さんがわ・せつこ)

北欧ソト料理家。スカンジナビアの雄大な自然と、豊かに暮らす人々との繋がりから、スカンジナビアのアウトドア、文化を主にお料理ワークショップを通して発信。レシピ提供したメディアは、「NHK 趣味どき!/たのしく防災!はじめてのキャンプ」、「メスティンレシピ」、「ソトレシピ」など多数。

大社優子 (おおこそ・ゆうこ)
大社優子 (おおこそ・ゆうこ)

写真家。横浜・アマノスタジオにて森日出夫氏に師事。独立後、様々な広告写真やドキュメンタリー、出版物を手掛ける。現在に至るまで個展、企画展などを各地で開催。“DARK ROOM PHOTO SESSION”というテーマをその都度変えたポートレイト撮影会も行っている。鎌倉在住。

及川佳寿美(おいかわ・かすみ)
及川佳寿美(おいかわ・かすみ)

湘南エリアを中心にしたライター・編集者。焚き火、ときどきフライフィッシング。NPO法人 逗子の文化をつなぎ広め深める会 副理事長。